インタビュー:bug-depayse

3月17日 ~ 19日(@日暮里 SUNNY HALL)に、OM-2×柴田恵美×bug-depayse 公演 『「椅子に座る」-M の心象スケッチ- 』 があります。演出には、3 団体の演出家が共同で行うということで、その辺りを中心に、共同演出の 1 人であるbug-depayseの演出家である宗方勝さんと俳優の野澤健さんにインタビューしてみました。

演劇と「障がい」との関わり

◎今は稽古で大変な時期だとは思いますが、よろしくお願いします。まずは、簡単に劇団紹介と自己紹介をお願いします。

宗方:「bug-depayse」で作・総合演出・映像を担当している主宰の宗方です。よろしくお願いします。

野澤:同じくアクターをしている野澤です。

◎どういった経緯で、演劇をやることになったのですか?

宗方:もともと画家を志していました。その活動の中で様々な表現方法を模索し始め、写真、映像、詩作...などを行ってきました。やがて周りに仲間が集まりまして、そのうち自分たちでイベントや発表の場を創り始めた矢先に、30 歳頃でしょうか、総合芸術としての舞台創作が面白いのではないかと思い、銀座の路上にて大がかりな演劇作品をゲリラで上演したのが始まりです。2001 年から細々と年 1 回ペースで作品を発表しています。

野澤:2003 年に埼玉県の国立身体障害者リハビリテーションセンターで宗方との出会いからでした。その後 2006 年の bug-depayse 作品「Mixture」に宗方から出演のオファーをもらったのですが、「ど素人なのにいいのかなって」期待と不安と...。それから舞台活動を続けています。

◎いつもは、宗方さんと野澤さんの二人が中心になって、公演を組立てていくって感じなんでしょうか。

宗方:そうですね。現在メンバーは二人です。周りに様々な表現ジャンルの人たちがいます。作品ごとその仲間たちに声をかけて共同制作していきます。劇団員も本当はもっとほしいのですが僕が社交的じゃないのもあるのかな(笑)...

野澤:なかなかこういった現代演劇に興味がある人が少ないのかもしれませんね。ただ単に積極的に勧誘してないだけかもしれませんが。

◎以前の公演では、身体障がい者の方が多く出演していましたが、そういった公演が多いのですか?

宗方:ここ数年は障がい者の方たちとの創作が多くはなりました。それは僕が舞台表現の可能性を模索していく中で、彼らたちの表現力が、僕が常に考えている人間とは何ぞや? 世界とは何ぞや? 生きるとは? 死ぬということは? といった大きなテーマに対して、彼らが表現力でともしびを与えてくれてる気がしたからです。そして彼ら自身も舞台製作の中で、自分が生きているという意味を模索しています。その接合点が舞台作品としてここ数年は発表しています。

野澤:確かに最近多かったですね。でも、障がい者だからというより、健常者だけでは表せない部分や表現が、宗方の模索しているテーマに合ったからという感じでしょうか。

◎宗方さんも野澤さんも、身体障がい者と聞きましたが...。差し支えなければ病名と症状を教えて下さい。

宗方:私は若年性関節リウマチ膠原病です。四肢の関節の炎症で発熱や関節自体の破壊が進み、人工関節など手術で何とか生活できるようになっています。それでも、かなり動きの制限がありますが。

野澤:軟骨無形成症という病気で、わかりやすく言うと「小人症」です。見た目の特徴としては、座高は健常者とあまり変わりませんが、手足が伸びません。足はO脚でお尻と太ももが大きく、腰が後ろにそっています。

◎テーマというのも、「障がい」といったものが多いのですか。

宗方:テーマに障がいを掲げたことは 1 作品しかありません。その 1 本は 2016 年に起きた「相模原障害者施設殺傷事件」をベースに製作した 1 本です。それ以外は僕の日々の問いかけからテーマが生まれ作品にしていきます。極論、生き死に関する哲学的な事柄が多いです。そういった意味では「障がい」もその中の一つであるとは思います。

野澤:その一本くらいですかね。

◎いくつか、障がい者が行っている団体や出演している公演というものもありますが、そういった団体と横の連携があったりするんですか?

宗方:製作を軸とした横のつながりはありませんが、野澤さんが働いている NPO 法人『ひこうせん』の方から、施設利用者の方々が出演する舞台作品を創ってほしいという依頼で製作してから、その施設の方々とは、出演も含めて交流があります。今後も、彼らと舞台を共同製作していきたいなとは思っています。まあ、是非、他のそういった団体とも連携していき、舞台芸術を通じて社会に強い発信をしていきたいとは思っているのですが。

野澤:僕は聴覚障がい者で、「サインアートプロジェクトアジアン」代表の大橋ひろえさんの公演に出演させていただいたことがあります。その団体は口話と手話で舞台を作る団体でしたが、口話も手話も覚えなければいけないのでなかなか大変でした。他は無いですかね。

◎健常者が行うものとの違いってあるんですか。あれば、それはどの辺りが違うのか教えて下さい。

宗方:僕の作品はテーマに基づいた抽象的なものが多いのですが、健常者と障がい者の違いというのはあまり感じません。役者やダンサーだって、これはできる、これはできない、難しいというのがあるわけで、あくまで身体障がい者というの は社会的身体としての不都合の定義だと思っているので、舞台上では僕は違いをあまり感じないですね。彼らは舞台上に立つと、社会的に守られてない身体を露呈して、むき出しに自分の身体 を駆使してどうにか前へ進もうとする、どうにか言葉を発しようとする、どうにか曖昧な記憶を紡ぎだそうとする、自分のすべてで舞台上に存在しようとするわけで、これって舞台に立つ(存在する)そのものではないのかっていつも思っています。観客は不自由な身体と認識するかもしれないけど、彼らが舞台に立つということを実はストレートに表している。

野澤:僕が外部の公演に参加する場合大体が障がい者の役者として参加します。小人の役や障害の〜という感じですかね。でも「bug-depayse」の作品では障害はその人を構成する一部分でしかなくて、例えば性別、人種とか...。僕はどちらも楽しませていただいてます。

◎野澤さんは、障がい者の人とやる方がやりやすいとか、そんなことがあったりするんですか。

野澤:僕自身、どっちがやりやすいってことは無いですね。もともと健常者の方とやることが多いのですが、同じ障がい者の方たちと舞台をやると新しい発見が出来たり、自分を見つめなおすキッケケにもなったりしますね。

◎パラリンピックの開会式では出演する障がい者の人を募集していたと聞きました。また障がい者が出演しているテレビ番組などもありますが、野澤さんはそういったものには出演したりしないのですか。

野澤:そうですね。基本「普段からこれに出演したい!」みたいな意思が無いんですけど、オファーがあれば出演しています。パラリンピックで言うと、東ちづるさんが演出した「パラリンピック公式動画」にはプロレスラー役で出演させていただきました。いまでも YouTube で「MAZEKOZE アイランドツアー」と検索すると観ることができます。

◎今回の公演は、3 団体のコラボレーション公演と言うことですが、これまでに「bug-depayse」としてはそういった公演というのはやったことがあるんですか。

宗方:今まではほとんどないですね。ですので大変難しい反面、とても楽しんでもいます。

◎野澤さんは、コラボレーションではないですが、多くの他団体の公演に出演してますよね。

野澤:コラボレーションというかたちは無いですね。今まで一出演者として参加させてもらっています。ですので、宗方の言うように難しいですが、これからどういう形になっていくんだろうと楽しみです。

◎今回のコラボ―レーションは、今の段階でどんな感じですか。言い争いになったりしそうですが?

宗方:言い争いはないですよ。皆さんストイックに製作していらっしゃるので大変刺激的です。

野澤:今のところ無いですね。これからあるのかな?


東京バビロン演劇祭2017参加作品 bug-depayse 『使者たち』より
今回の作品について

◎「OM-2」はパフォーマンス、「柴田恵美グループ」はコンテンポラリーダンス、「bug-depayse」は演劇と言うことですが、そう いったジャンルの違い、例えば稽古の仕方とか進行とかに違いとかはありますか。

宗方:今まで僕は、ダンスや演劇やアートを混ぜ合わせた作品を多く創ってきたのですが、いつも全体に関わって来たんです。ダンスであれば振付の部分までも関わったりしています。今回はその役割は真壁さんがしてらっしゃるので、自分たちのシーンを創るって合同稽古の時に合わせ、また修正やアイディアを個別の稽古で反映させて次の合わせの稽古に持っていくというやり方はとても新鮮です。

野澤:多くの舞台がダンスも演劇も稽古場で同時進行というかたちで創っていくので、合同稽古の際に少しずつ他のシーンが見えてくるので面白いです。

◎自分たちの劇団でやる公演とは違い、やり辛いとか逆にやりやすいなどあれば...

宗方:やりづらいは特にないですね。やりやすさは、作品のすべてに関わり責任を負うことがないので肩の荷は本当に軽いです(笑)。もちろん自分が担当するシーンには全身全霊取り組んでいきます。

野澤:確かに。制作もいつも全て行っているので楽をさせていただいてます。

◎宗方さん、野澤さんから見て、OM-2と紫原恵美さんたちは、どんな感じなんですか。

宗方:「OM-2」はもう 20 年以上前から知っていて作品も数作品、観ていました。「bug-depayse」の公演でも何度か「OM-2」の作品みたいだっていう感想もあったんですよね。ですので今回のお話を頂いて楽しみの一言ですね。

野澤:前回の「OM-2」の『傾斜 -Heaven&Hell-』を拝見させていただいたのですが、佐々木さんの狂気に近い演技や、あの凄い傾斜で踊る柴田さんたちの舞台は魅力的で、見終わった後「僕だったらどうやるか」というのを考えていました。 まさか共演できるとは思っていなかったので驚いています。

◎会場の日暮里 SUNNY HALL って大きい劇場ですが、小さい空間でやる場合との違いはどうですか。

宗方:やはり、大きい劇場では、空間の遠近性や声の響きなどは今までの行ってきた劇場とは違うと思うので現在試行錯誤しているところです。

野澤:以前、蜷川幸雄さんの舞台で渋谷のオーチャードホールで公演を行ったのですが、とても広かったので、自分の声がどこまで響くか、演技を大きくしないと伝わらなかったりと大変でした。

◎今回の公演はどんな感じになりそうですか。

宗方:既存の宮沢賢治作品のイメージを覆し変えるような作品になると思います。我々現代人と宮沢賢治が持っていたであろう精神性との新たな共通項を感じ取ってもらえるような作品にしたく製作中です。あとは、総合演出の真壁さんのこの作品のもう一つのテーゼ『椅子に座る』とはどういうことなのかを、観客一人一人が自分の人生のなかで何かを感じ取ってもらえるような作品にしたいですね。

◎宮沢賢治を題材にした『M/Mフェスティバル』参加となっていますが、『「椅子に座る」-M の心象スケッチ- 』も宮沢賢治の作品を題材にしているんですか?

宗方:はい、そうですね。宮沢賢治の人生と彼の様々な作品のシーンを解体し再構築したうえで現前化しています。ですので、宮沢賢治のステレオタイプな作品の印象とは違うものになるとは思います。楽しみにしていてください。

◎宗方さんたちは、宮沢賢治の作品のどの辺りを演出してるんですか?

宗方:『風の又三郎』ですが、ストーリーを伝えるようなものではありませんよ。(笑)

◎野澤さんは、どんな役で出演するのですか。

野澤:「カンパネルラ」であり「風の又三郎」だったり...。あとは「宮沢賢治の人との交流にも関わるような人物」であったり。観てのお楽しみということで。(笑)

◎オミクロン株の感染者が多くなっていますが、大変ですね。演劇団体などは、今大変ですよね?

宗方:そうですね。とにかく感染予防対策の徹底にナーバスになるくらい心がけています。稽古中は、窓を開けっぱなしで換気を行っているので、この季節ですから風邪をひきそうですよ(大笑)。出演者は体中にホッカイロを巻いてやってま す。それ以外にも稽古場の使用時間が時短などで短くなり、リハーサルのスケジュールも変更も余儀なくされ対応に追われています。

野澤:本当に大変ですよね。でもそれはどの場所、人とのつながりでも同じような状況ですので、今自分たちができる対策をしっかりやっていくことをしかないですよね。

◎今回の公演も無事に終えられると良いですね。

宗方:はい、今はとにかく自分たちができることをしっかり行って、作品の創作に集中していくしかないですね。座組の全員が公演が無事に行われることを祈りつつ、今自分たちができる安全対策、予防対策をしっかり行っています。

野澤:そうですね。今は自分達がやれることをしっかりやる、それしかないですね。


これからのこと...

◎国や都に、コロナ対策なども含めて何か言いたいこととかあれば...

宗方:文化・芸術を守ることは、その国の人々がどれだけ豊かに生きていられるのかの絶対条件だと僕は思っています。それは反権力的な作品を製作していようが、商業的な利益を上げてなかろうがです。今回のコロナ過では、利害関係や様々 な政治的思惑を度外視して、芸術や文化を守る視点での対策をしっかりと行っていただきたいと切に願います。

◎現在の演劇状況などについてはどうでしょう...

宗方:すいません、僕はあまり業界の状況とかはよくわからなくて...興味がないというか。ただ、情報やデジタル文化と の接合の場所としての舞台芸術という視点でもっと面白い試みができるのではとは思っています。

野澤:僕も疎いのでわからないですが、もっと障がい者や LGBT などの社会的マイノリティの方々が舞台創作の現場にどんどん進出して、社会の様々な側面から作品を創っていけるようになったらもっと面白いのになと日ごろから思っています。そうしたらオファーももっと増えるかも(大笑)。

◎「bug-depayse」としては、これからこうなっていきたいとか、海外公演をやってみたいとか、そんな展望があれば聞かせて下さい。

宗方:海外で公演をやってみたいというのはずうっと願望としてありますね。海外の人がたまにうちらの公演を観にくる こことがあるのですが、結構ウケがいいので(笑)。セリフが少ないからというのもあるかもしれませんが(笑)。過去作品 では何度か日本人以外の人も出演していますし。

野澤:確かにそうですね。一回ぐらいは海外公演やってみたいですね。僕は以前、フランスのルーヴル美術館で行った夏木マリさんの舞台に出演させていただいたので経験済みではありますが。宗方さん、すいません、お先にです。(笑)。でも「bug-depayse」の作品が異文化の中でどう受け止められるのかはすごく試してみたいですね。

◎最後になにか一言ありますか。

宗方:『「椅子に座る」-M の心象スケッチ- 』楽しみに待っててください!! 劇場でお会いできることを楽しみにしております。ぜひお越しください。

野澤:観ごたえある作品になっていますので、是非皆様会場に足を運んでください。劇場でお待ちしています。

◎本日は、忙しい中ありがとうございました。


宗方勝
「bug-depayse」主宰。美術・映像・アートディレクターの傍ら、01 年舞台芸術グループ 「bug-depayse」を立ち上げる。演劇・ダ ンス・アート・メディアをミクスチャーし、物語形式ではないテーマに沿った総合芸術としての舞台作品を発表している。


俳優/野澤健
主な出演作品に、11 年「彩の国芸術劇場」のイギリス人演出家による『ロミオとジュリエット』(健常者、障害者混 合公演)。蜷川幸雄演出『青い種子は太陽の中にある』、bug-depayse 公演『髭を生やしたモナリザ』、金守珍演出『ビニールの城』など。




「M/M フェスティバル」参加作品 OM-2×柴田恵美×bug-depayse
『椅子に座る』‐M の心象スケッチ‐

◎日時 / 2022 年 3 月 17 日(木)~19 日(土)
◎会場 / 日暮里 SUNNY HALL
◎構成・演出 / 真壁茂夫 ◎共同演出・振付 / 柴田恵美 ◎共同演出 / 宗方勝
◎出演 / 佐々木敦、野澤健、柴田恵美、鈴木綾香、小野麻里子、手塚紀江、杉田亜紀、大塚郁実、安岡あこ、上松萌子、柴田美和、 丹澤美緒、倉島聡、石塚晴日、中島侑輝、ヒラトケンジ、飯川和彦、他

●予約/カンフェティ ☎:0120-240-540(平日 10:00~18:00)
●問合せ/OM-2 MALL: info@om-2.com
「異端」を背負って生きなければならなかった人間の在り方を見つめていくことで、ひとり一人の内 なる人間の正義や「ほんとうの幸い」、果たして真実とは何なのか。その問いにフォーカスし現在に投げ掛ける。自分はなぜ生まれてきたのか。自分の居場所はどこにあるのか。自分が座る椅子は存在するのか。

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