Special Interview Vol.010
ジエン社 
インタビュー

ジエン社 主宰作者本介インタビュー



Q ジエン社はどういう演劇をこれまでやってきましたか?

 だいたい100分程度の、一場一幕ものです。特別に、特殊な演劇をやってきたという自覚はないのですが、ただどこかで、そういう、普通の演劇というものに、疑いたいなとと思ってやってますが。やればやるほど、普通だなあと思ってしまいますし、普通からは逃れられないなと。

Q その、普通というのは、どういう意味ですか?

 たとえば、劇場で上演されていて、制作がいて、照明があって、音響があって、そこには舞台と客席があって、舞台と呼ばれている場所には美術があって、みたいな。これを、演劇と呼んでいたりする。普通だなと。自分のところの演劇も今のところ、制作がいて、照明があって、音響があって、みたいな、普通だなと思っています。


Q もう少し詳しく、自分の演劇について語っていただけますか?

 とにかく、普通であることに何か、いらいらしている気がします。さっきの設問の続きになってしまいますけれど、とにかくやってることは、普通の演劇なんです。他人はどう思っているかどうかはわからないですけれど。特別なことは何もしてないですよ。普通に脚本があって、一ヶ月程度稽古して……まあ、それなりにポリシーじゃないですけど、その程度の考というんですかね。リアルにやろうとか。でもその程度のポリシーですよ。口にする程度のポリシーです。口にすればするだけ、嘘というか。
そもそも、自己紹介というか、自分で自分のことを紹介するのは、すごく苦手なんですよ。そんな言葉、誰も聞かないだろうなあって思ってしまうんですよ。だって、自己紹介ですよ? 見ず知らずの、無名の人間の情報なんて、知りたいですか? だから自己紹介しなければいけない空間で、身分を明かさなければいけないときは、仕方がないので、他人に紹介してもらうまで、黙っているというか……。
たとえばこのインタビュー記事も、誰が読むんだろうという気がしていて。今、普通に、設問に対して答えていますけど、普通に、これで、誰が読むんでしょうか? 少なくとも僕は、ほかの人のインタビュー記事を読むんだろうか? よっぽどおかしなことにでもなってなければ、読もうとも思わないし。
まあ、肩書きとか、ひっかかるポイントというか……僕自身に今、肩書きもなければ、実績もないし、自分自身でいままで、普通程度に面白いことはやってきたつもりですけど、抜群に面白いことをやったかというと、どうなのか。やってないんじゃないか。演劇というカテゴリの中で、普通にしていただけなんじゃないかというように思ってしまうんですね。演劇というジャンルを揺るがすこともなく。ただ自分の間を埋めていただけのような気もします。だから、何をやってきたのかとか、どんなお芝居だったのかというと、何も答えられないなと。変な芝居らしいんですけど。自覚もないし……。


Q 周りからはどういう評価をよく受けますか?

 面白くないとか、眠いとか、構成力が足りないとかはよく言われます。
ただ、いまひとつピンとこないのは、なんか、通り過ぎちゃうというか、どうでもよくないか? とか思ってしまうんですけどね。
あっでも、このあいだの公演が、テアトロという雑誌の中にあるミニコラムにちょっとだけ評が載って(『テアトロ』2009年6月号 『フリンジ系評判記』 浦崎浩實)、そのとき面白かったのが、ストーリー説明がぜんぜんデタラメなんですよ。つまり、まったく伝えられなかった。まあストーリーとか、すごくどうでもよいので、いいんですけど。でも好意的に見てくださってて、あと僕の好きな小説家の保坂和志っぽいって書いてくださって、それがすごくうれしかったです。だから、あ、じゃあ、保坂和志っぽい演劇です、って言えば、わかってくれるんでしょうか?
ちなみに僕はこの人の小説、読破したことがないんですけど。眠くなるので。


Q 作品作りで、一番気をつけていることは何ですか?

 一番とかはないですが。やる気は出さないで欲しいと思っていますし、僕自身も、絶対にやる気で芝居は作らないぞと。これだけは、たしかに、こだわっているかもしれません。

Q それはなぜですか?

 わかりません。直感です。ただ、嫌なのです。やる気を出す、というか、「やる気を出すのが普通」という空気が。
そもそも、何もない空間を、役者がただ通り過ぎて、それを見ている人がいれば、それを演劇とよんでいいはずなのに、でも今、それをやろうとしたら、それはやる気がないと言われてしまいませんか?うまく説明できないですけど。でもそういった、やる気を抜いた芝居……何もない空間を、ただ役者を通り過ぎる事を、もっと考えたいんです。それを演劇とは呼べない空気とは何か、という事を、もっと考えたいんです。おかしいはずなんです。そもそも、劇場を借りて、照明つけて、音つけて、いろんな人の善意や協力を仰いで……なんでこんなに、やる気がなくちゃいけないんでしょうか?
ちょうど今、知り合いの劇団主宰が劇団の休止するみたいなのを知ったんですけど。何でだって思って理由を調べると「とにかく消耗して、疲れた」と書いてあって。まあそんな感じなんですよ。
自分よりも、才能と知名度と能力と気合に満ち溢れた人物が、なぜ消耗しなくちゃいけなかったのか。なぜ疲れなくちゃいけないのか。なぜ休まさざるを得なかったのか。
何の話をしていたのか、忘れちゃいましたけど。


Q なんで「やる気がない」なのか、という質問です。

うん、だから、彼を消耗させるものは何なのか、疲れさせるものは何なのか。やる気を見せざるを得ないものは何なのか。
それはだから、冒頭の「普通」問題にもつながる気がするんですよ。
でも、今もやってることは、普通の演劇……ちょっと意味がわからないですね。こうやって話していると、自分自身でもなんで演劇をやっているのか、わからなくなりますね。僕もいつか、辞めてしまうんでしょうか。
まあ、そういうような話を、次回の公演ではやらせてもらう予定です。


Q 本日はありがとうございました。



次回公演

The end of company ジエン社 『コンプレックスドラゴンズ』

10/22(木)~10/25(日)

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