ほろよい対談(阿佐ヶ谷・あるぽらんにて) 
											カゲヤマ気象台 
												同伴・兼桝綾(激情コミュニティ) 
										兼 なんですか、このとうふようってのは 
											カ くせのある豆腐っていうか…くさった豆腐? 
											兼 くさった豆腐(笑)…で、なんでしたっけ…次回公演が。仏門オペラ? 
											カ 世界のために、とまどい編『仏門オペラ』です。 
											兼 仏門って、リアル仏門? コンセプト何? 
											カ いや、わりとガチ仏門なんですけど… 
												世界に向き合う態度のひとつとして、仏教的態度を、つかってみようっていう、そういうコンセプト。 
											兼 ふーん、その仏教的態度、っていうのは何に拠ってるんですか? 
											カ 参考にしてるのはね、親鸞。浄土真宗の。 
											兼 ちゃんと理解できてる?(笑) 
											カ 理解できてないかもしれないけど…や、僕、歎異抄を読んでさ、読んだんだよ、ちゃんと? 
											兼 はい(笑) 
												  
											カ 親鸞の言ってることにさ、僕の演劇観とさ、すごく共通するような部分が見つかって。 
											-------だから今回は親鸞のお言葉をかりて、アプローチしていこうっていう、 
												まず演劇ありきの話ですよ。親鸞研究をしたいわけじゃなくね。 
											兼 アプローチの仕方としての仏教的態度ってことね。 
											カ そうそう 
											兼 …ってどんな態度ですか、それ(笑)? 
											カ まず、善をなさない、っていう考え方があって。 
											-------浄土にいこうとしたら、ふつう「いいことしよう!」って思っちゃうんだけど、 
											-------そうじゃないよって親鸞は言うのね。そうじゃなく、ただ感謝して、念仏を唱えろと。 
											兼 つまりそれは、カゲヤマさんにとって、役者がそうであるべきってこと? 
											カ そう、観てるひとに、何か思わせてやろうとか、訴えかけようとか、そういうのはもういいんですよ。 
											-------ただ台詞を言えと。書いた俺に感謝しながら(笑) 
											兼 (笑) 
											カ ってのはまあ、言い過ぎだけど(笑) 
											-------…まあだから、「私を楽しませてくれよ!」って気持ちで観劇に来るお客さんは、 
											-------もしかしたら楽しめないのかもしれないなあ。観客を意識しないというのとはまたちがうんだけど、 
											-------僕らの側から、観客に「僕らのパフォーマンスを観て!」っていうやり方では、無い。 
											-------ではどういう風に観客に働きかけようというのかというと、それはグルーヴなんですよ。 
											兼 え、音楽の? グルーヴ? 
											カ 最近ね、グルーヴっていうことを、僕言いまくってるんですよ。 
											-------テンポよく、緩急をつけて、一定の時間で、お客さんののりやすいようにする…っていうのではなく、 
											兼 ではなく!? 
											カ ではなく。 
											兼 ではないんだ…。 
												  
											カ ではないんですよ。それだと自力作善っていうか、「いいことしよう」になっちゃうわけです。 
											-------例えば、プログレとかさ。すごくのりづらい音楽があって、 
											-------踊れないような、へんな拍子を混ぜてくるのね。でもなんか、体が動いちゃうっていう。 
											-------ニューオーリンズとかの音楽なんかも、ずれるんだよね。手拍子も変なとこだったり。 
											-------でもそれがよけいグルーヴィなんですよ。体を動かすって、そういうことだと思う。 
											-------というか、本当の意味で体を動かす、って、そういうことでしかないと思う。 
											-------何エイトとか、割り切れる拍子にあわせるんじゃなくて。 
											兼 それが本当のグルーヴだよ、と。 
											カ そう。 
											兼 そして俺はそれをやるよ、と? 
											カ そうそう。つまり、何かに働きかけようとするんじゃないパフォーマンス? 
											-------観客の想定するところの時間から外れていくような演技? でもって、 
											-------それでも観客も動かずにいられなくなるようなことをやりたい。 
											-------それを通じて、世界へのとまどいに向き合おうっていう。 
											-------そこをクローズアップしていこうと。 
											兼 なるほど……カゲヤマさん、沖縄塩焼きそばとやらを頼んでもいいですか 
											カ あ、大事なことまだ言ってない 
											兼 言っちゃって言っちゃって(注文する) 
											カ あ、あとオリオンビールをもう一本…(注文する) 
											-------…なんでね、とまどい編って名うったかっていうとさ。 
											-------震災があった時…震災とか言うとさ、あーはいはい地震の話かってなっちゃうかもしんないけどさ。 
											兼 カゲヤマさん、地震の時って、音響のスタッフをやってたんですよね? 
											カ うん。本番中に揺れてさ。音響卓で、揺れてるな、大きいなとは思ったんだけど、 
											-------この場から逃げ出したいとか、恐怖感っていうものが無くてさ。 
											-------同時に、死ぬかもしれないなとは思っていて。 
											-------…しばらくたって、みんなとか、著名人とかが、「すごく恐かった」って言ってるのに、 
											-------恐くなかったな、って、疎外感を覚えてさ。 
											-------もしかして僕は、自分の身におこってることを含めて、 
											-------世の中に起こってることに対して無関心というか、無感覚なのかなって。 
											-------その…とまどい感? 自分はどこにいるんだろうっていう。勿論自分だけじゃないんだけど。 
											-------今までもそういうことをさ、演劇でやってたんだけど、地震をきっかけに、ある種確信が持てたというか。 
											兼 俺がやってきたことって、とまどいだったんだ!って(笑)? 
											カ そうそう、これとまどいだ!って。 
											-------んで、それに対して真宗的な態度から真摯に見つめていこうっていうのが、あって。 
											兼 ……どうなっていくんですか。これからsons wo:は。 
											-------あ、これどういうひとたちをターゲットにやってくのかって、そういう話ね。 
											カ …ほんというと、地域のひとに観て欲しい。 
											兼 東京を出たとこでやりたいっていう? 
											カ というか、演劇って、すごくローカルなものだと思うんだよ。東京は東京というローカルでしかないし。 
											-------例えば僕の地元(浜松)でね、人形劇のフェスティバルあると、けっこうみんな行くんですよ。 
											-------人形劇に興味ないような人たちもさ。屋台がでたりしてね。 
											-------で、ちょっと前に、寺山修司の戯曲をやった人形劇が来ていて。 
											-------田舎だしふだん演劇も見ないけれど、それでもものを考えようっていう人たちが、 
											-------その演劇を通じてなにかを得ようと思って、難しい顔して見てるわけ。 
											兼 そういうものを目指したい? 
											カ うん…こないだ、地元の路上演劇祭を見てさ。けっこう前衛的なのが路上でやってて。 
											-------通りがかる人はさ、「え、何?何かやってる?あ、演劇?演劇ね」って、とまどったりおちょくったり…、 
											-------でも、一人二人じっと観ててさ。その中に、高校生くらいの女の子がね、観てて。 
											-------で、保護者的なひとがほら行くよって、結局女の子行っちゃったんだけど、 
											-------女の子としては、ほんとはまだ観ていたかったにちがいないんだよね、その演劇を。 
											-------僕としては、あの女の子に、届けたいっなていう。 
											兼 なんだか、個人的だなあ!(笑) 
										 
												 
											  
												カゲヤマ気象台(かげやま・きしょうだい)  
												1988年、静岡県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。 
												2008年、sons wo:としての活動を開始。 
												ことばのバランスのくずれたところから、おかしみとなつかしい悲しみの滲む文章が持ち味。 
												俳優として岡崎藝術座などに出演したこともある。 
										兼桝綾(かねます・あや) 
												パフォーマンスユニット「激情コミュニティ」のメンバー。 
												近作『THE WALL』(2011/6/30~7/3@神楽坂die pratze)にて脚本を担当。 
												他にも俳優として活動したり、小説や詩などの作品を発表したりしている。 
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