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劇団山の手事情社
http://www.yamanote-j.org/
1984年に早稲田大学の演劇研究会を母体に結成されて以来、実験的な舞台を通して現代演劇のあるべき姿を模索している。 90年代後半からは戯曲を用いつつリアリズムをどう乗り越えるかという課題に取り組み続け、《四畳半》と呼ばれる新たな様式的演技スタイルを確立。 現在、ギリシア悲劇やシェイクスピア、近松門左衛門など古今東西のテキストの上演に挑んでいる。近年では2009年より、ヨーロッパ三大演劇祭のひとつであるルーマニアのシビウ国際演劇祭に招聘され、5年連続の参加。これらの活動が評価され、主宰の安田雅弘は、シビウ国際演劇祭より故中村勘三郎氏、野田秀樹氏らとともに「特別功労賞」を受賞した。
Photo: 主宰・演出家 安田雅弘 ©Scott Eastman |
――劇団山の手事情社 主宰・演出家の安田雅弘さんにお話を伺いました。
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山の手事情社は今年30周年を迎えましたが、現在はどのような活動を行なっているのですか。 |
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今も昔も変わらず「演劇でしかできない、面白いものの先端」を探求しながら作品づくりをしています。とくにここ5年、ルーマニアのシビウ国際演劇祭にかよっていました。2007年に初めて見に行ったんですが、これがまぁ面白い。こんなに面白い演劇が集まる場所があるんだ世界は広いや、と感心して2009年から毎年作品を持ってでかけました。さいわい相性がよかったのか、向こうもウチの作品を気に入ってくれて、一昨年には、現地の国立劇場の俳優たちと一緒に芝居を作るチャンスまでいただきました。しんどいことも多かったですけど、やっぱり演劇はおもしろいなぁと感じることができた体験でした。
今年の公演は1月の「ドン・ジュアン」、3月の「ヘッダ・ガブラー」と洋モノが続いていたので、久々に日本人作家のものがやりたかったんですね。今までやったことのないフィールドで探して行きつつ、戯曲にこだわらなくてもいいのでは、という思いがわき、明治以降の日本文学に目を向けました。また、若手の人たちとやるんだったら、材料を入手しやすい近代日本の作品がいいのでは、とも思っていて、結果的に明治の東京の人、樋口一葉の作品になった、というわけです。
「にごりえ」を選んだのは、現代にも通じる何かをたたえていそうな予感があったからです。俳優たちと、丸一日かけて、ゆかりの地を歩いて、町並みは大きく変わっているけれども、その下に流れている人間の感情は変わらないんじゃないかと思いました。別に昔の日本が良かったとか、良くなかったとかではなく、何かを失い、何かを得て、でも何かは変わっていない。じゃその変わっていないものは何なのかと、それを探っていこうと思っています。
Photo
左:一葉が図書館に行く際通ったという無縁坂 中央:一葉が住んでいた菊坂の界隈 右:一葉が贔屓にしていた質屋「伊勢屋」
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女流作家の作品は初めてとのことですが、樋口一葉の魅力はなんでしょうか。 |
女流作家だからというよりも、女性でありながら男性のように生きなければならなかった彼女の人生は気の毒であり、しかし無責任な立場からすると面白いですよね。家長として樋口家を継ぐのは仕方ないとしても、結婚より小説を選ぶ女性というのは、相当異常だったんじゃないかな。収入がなくて荒物屋を開たりしながら苦労して小説を書いて、こんなにお金にならないのに何でやってるんだろう、というところでは、演劇をやっているボクらに通じるところもある。一葉が生きた時代は、日本が歴史上、ほんの数回しか出会っていない価値観大転換の時代なわけで、現代も価値観変動の時代と言われていますが、その揺れ幅というか、震度は今よりはるかに大きかっただろうと思います。不意に川に落ちて気がついたら流されていて、もがいても溺れていくだけというような。今ボクらが「あたりまえ」と思っている事は、決していつの時代も「あたりまえ」なわけではなく、ふとしたことで消えてしまう可能性のある、はかないものなんだということが描かれているんじゃないでしょうか。それは今回、舞台を作る上でとても大切な要素だと思っています。
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今回は若手公演と銘打っていますが、本公演との違いはなんですか。 |
本公演で出来ることをメンバーを若くしておこなうわけではなく、若手俳優の尺にあったことをやろうと思っています。方法はなんでもよくて、彼らの魅力が引き出せる要素をできるだけ集めて、舞台にまとめたいなと考えています。全く新しい集団をつくるつもりで稽古の進め方から何から、本公演とは違ったやりかたで進めています。たとえば、今日はこの稽古するとあらかじめ決めないで、ボクも即興的に稽古を選択し、俳優もそれに即興的に全力を尽くしてもらう、というような。
Photo:「drill」(2009年3月)若手を中心とした公演
とにかく基礎を大切にしています。ランニング、身体訓練、発声練習は、毎稽古かなりの時間をかけてやっています。この世に存在しない魂を舞台上に出現させるのが演劇の役割だとボクは思っています。物語の中にしかいない登場人物や場所を、この世に出現させるには、その映写機である自分の魂というものと徹底的に向き合っていくことが求められる。魂なんて当たり前ですが、簡単なものではなく、その正体に迫ろうと掘り下げていこうとすれば、表現手法である声や体を鍛えなければならない。高いレベルのイメージがあって、高いレベルの表現が出てくると勘違いしている人がいるけれど、高いレベルの道具があるから、高いレベルのイメージが見えてくるんです。どのみち簡単な作業であろうはずもなく、七転八倒しながら稽古場で汗をかいています。
単に「にごりえ」を台本にして上演するのではなく、稽古場で俳優たちが創作したシーンを積極的に入れていこうと思っています。「にごりえ」の世界に飛び込むだけでなく、「にごりえ」の世界に触れて、自分たちにグッとくるところを引き出して膨らます。一つの作品が俳優を通して色々な形に変わって行き、本を読んでいる時とは違った魅力にたどりつければいいですよね。「とにかく面白いものを持ってこい」と俳優には頭をしぼってもらっています。アイディアというのは、頭で考えて紙に書いて出てくるものもあれば、ハイテンションでないと出て来ないものもある。ハイテンションで、ある種のたがが外れた状態になると、人間は身体で考えるようになる。普段無意識に隠している部分が露わになるような瞬間がある。それが舞台上で見えると劇的で、それこそ芝居の醍醐味ですよね。
また、《ルパム》という山の手事情社オリジナルのダンスがあり、こちらの稽古も始まっています。「ドン・ジュアン」の時も踏み台昇降のようなシンプルな動きの《ルパム》が、かなりお客さまの印象に残るシーンになっていたようですが、今回も見せどころの一つにしたいですね。
Photo:「ドン・ジュアン」(2014年1月)©Toshiyuki Hiramatsu
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今演劇を志している若い方々になにかメッセージをお願いします。 |
そんな偉そうなことは言えません。
ただ、今回一緒にやる若手俳優には電子辞書を買い、携帯するように指示しました。みんな樋口一葉の言葉がわからないのに放置していないか、と思ったんです。いや下手すると、ボクの言葉さえ理解できていないんじゃないかしら。世の中がわからないことだらけだってことはわかっているつもりですが、調べればわかることは放置しない方がいい。自分の身の回りで起こっていることに興味を持つことは演劇をやる上では重要なことだと思います。
次回公演
山の手事情社
『にごりえ』
日程 > 7/17(木)~20(日)
tel. > 03-6410-9056
公演詳細 > 公式HP
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