interview no.128
 大塚郁実 インタビュー
  インタビュー・テキスト:林慶一
 

「ダンスがみたい!新人シリーズ15」<オーディエンス賞>を受賞し、振付家としての今後の展開が期待される大塚郁実。彼女の人柄を顕すように内省的に訴えかける構成と振付はどのようにつくられているのか。彼女のクリエーションに影響を及ぼしものや、ダンスをつくることについて話を聞いた。


    コンテンポラリーダンスという名前自体に興味は無くて、ただただ好きなものを作ってよいと広がった気持ちで作っていたように感じます。コンテンポラリーダンスという名前をきちんと意識し始めたのは大学を卒業してからかも

まず大塚さんのダンス来歴についてお伺いしたいと思います。私が最初に大塚さんを知ったのは柴田恵美さんの『ぁぁぁあああああ……』(2014年 d-倉庫)にダンサーとしてご参加されている時でしたが、これまでどのような道のりだったのでしょうか。

大塚 6歳ぐらいの時に公民館を借りてやるような地元の小さなクラシックバレエのクラスに通っていて、何年か経った後に先生が変わって、その時の変わった先生が柴田恵美さんでした。初めて会ったのは小学校中学年ぐらいだったと思います。

ではコンテンポラリーダンスとの出会いもその時?

大塚 その時は柴田恵美さんがコンテンポラリーをやられる方と知らなくて…。クラシックバレエもそんなに楽しんでいなかったので、なんとなくやっている感がありました。中学2年ぐらいまで週一回のバレエをずっと続けていて、その後はダンスから1度離れました。中学でバドミントン部に入って、それに夢中になっていました。再開するのは高校生ですね。大和高校の創作舞踊部入りました。そこの顧問の保田先生という方に出会ったことは今の自分にすごく大きな意味を持つと思います。そして大学生になり、柴田恵美さんから「出てみない?」と声をかけていただき、それをコンテンポラリーダンスとも知らずにダンサーとして出演させてもらいました。そこからずっぽりハマっていってしまったという感じですね。大学生の時は、自分でも結構創っていたのと、小笠原大輔さんというカポエラを中心にやっていた方が高校の部活のコーチみたいな感じで来てくれて、その人が近藤良平さんの大学の後輩だったみたいで、繋がりでその方の作品に何回か出させてもらいました。

そのようなダンサーとしての取り組みと並行して作品制作も行っていたわけですね。もうそのころにはコンテンポラリーダンスと意識して作っておられたんですか?

大塚 ちょっといまいち…だと思います。コンテンポラリーダンスという名前自体に興味は無くて、ただただ好きなものを作ってよいと広がった気持ちで作っていたように感じます。コンテンポラリーダンスという名前をきちんと意識し始めたのは大学を卒業してからかも、、、

元々クラシックバレエに乗り気じゃなかった大塚さんが、コンテンポラリーダンスには主体的に入っていけたのはどういうところに惹かれたのでしょうか?きっかけとなった柴田さんなんかはほんとうに奇異な身体の使い方をしますよね、クラシックバレエの身体運用とは美的にかなり異なるような。

大塚 クラシックバレエを教えている恵美先生から、コンテンポラリーダンスを作って踊る恵美さんのその人物としての差に、わたしは惹き込まれていったのだと思います。初めて私が踊らせていただいた柴田恵美さんの作品が馴染みのあるクラシック音楽「花のワルツ」を使った作品でした。もちろんクラシックバレエバージョンの恵美さんの振付「花のワルツ」も幼いときに見ていましたから、作品や身体の使い方の違いにも驚きはあります。けどそれ以上に恵美さんの頭の中に興味がわいたのを覚えています。自分に知らない世界があるんだろうなぁという。


    大きくなりすぎたものは、本質を失ってただの大きな固まりになってしまう。そしてその固まりがどんどん力を得ていく。それってすごく怖いことですよね

他にも影響を受けたアーティストはいましたか?

大塚 最近新作がでたりしてタイムリーな作家だと思うんですけど、村上春樹がずっと好きです。大学に入っていまいち環境に馴染めず、それまで本に興味がなかったのですが、本を読むようになりました。

作品制作の上でもインスピレーションを受けていますか?

大塚 受けていますね。自分しか知らない罪じゃないですけど、そういう部分を受け入れてくれるような、、


「自分しか知らない罪」ですか。ここに繋がるか分かりませんが、今回受賞された大塚さんの「It isn't a story about war.」は示唆的なタイトルですね。私たちの生活、日常の裏側で進行している「何か」を観客に想像させる、あるいはそれをイメージとして可視化するような試みのように見受けられました。創り手としてこの作品はどういうチャレンジだったのか?

大塚 この作品は昨年の9月に、新人シリーズにも出てくれている安岡あことの共作で、品川のアーティスト展に出したんですよね。ティム・オブライエンの「本当の戦争の話をしよう」という村上春樹翻訳の本です。その中の1つのフレーズに惹きつけられたんですけど。「結局のところ、言うまでもないことだが、本当の戦争というのは戦争についての話ではない。絶対に」という文章だったんです。その文章から「It isn't a story about war.」というタイトルをつけました。この文の面白さは戦争という大きなワードに、とらわれないくらいの構造的な捉え方が出来る部分だと思いました。図式や公式、構造は無限大に想像させてくれるし、それでもって個人によりそえるものです。だからそういうものをみるとそこから作品をつくりだしたくわたしはなるみたいです、、。

いわゆる戦争の悲劇性やリアリティにフォーカスして作品に取り上げられることが多くありますが、大塚さんの場合はもう少しその構造というところに踏み込もうとしているんでしょうか?

大塚 大きくなりすぎたものは、本質を失ってただの大きな固まりになってしまう。そしてその固まりがどんどん力を得ていく。それってすごく怖いことですよね。「about war」の部分は正直何にでも置き換えられると思うのですが、なるべくそういった大きなものがいいと思います。そしてそのある大きくなりすぎたものに対して、その周りにあるものとの関係性から真ん中にある、このタイトルでいうならば戦争の部分を、想像させるだとか、そういう関係性を見せるというのが結構面白いなと思っています。『桐島、部活やめるってよ』という映画でも本でも良いんですが分かりますか?最初から最後まで主人公の桐島が一切出てこなくて、だけどその周りの人たちの物語だけで終わるんですけど。それだけで容易に桐島という人物が想像できたんですね。それと似たようなものをこの文章からも得ました。

分かるような気がします。ところで今回の出演者は日本大学のメンバーで構成されていると。

大塚 4人が同期で、2人は高校のダンス部の後輩、双子ですね。タイトルは同じでやったんですけど、1月にやったものとは全く別物になっちゃったので。振付も完全に異なりますね。

2016年の9月にアーティスト展で発表を大塚さん独自にリ・クリエーションした、そういった作品だったんですね。主にどのような点で変わりましたか?

大塚 作品自体は全く違います。まずその時は女性8人で、みんな金髪のボブの、ブロンドの髪で踊ったんですけど…絨毯とかもなかったんです。


    一人で身体と向き合うことをしたいです。作家でいう自身の文体を得ることだと思うのですが、それを静かにコンスタントにやっていきたいです。

大塚さんの作品では、振付けられたフォルムやフォーメーションに強いこだわりが感じられます。先ほどお伺いした「関係性」への関心にも繋がるお話かもしれませんが。

大塚 振りのムードというか、いつも見ている人と人とが話していたり、なんか異様な雰囲気があるじゃないですか?そういう時の、いつもと違う雰囲気の空気感、ムードをすごい大事にして創ったかな、この振りは。

「いつもと違う雰囲気の空気感」というのは?

大塚 例えば、今私が質問されて「こういうことですか?」という時の雰囲気とかって、なんかいつもと違う、集中の具合が違ったりするじゃないですか?そういうのが私、面白いなと思っていて。あと、全然話が飛んじゃうんですけど、記者が謝罪会見…まぁなんでもいいんですけど、映画で観たのかな、謝罪会見をして謝っている人とカメラマンと取材の人がたくさんいて、こっちが何か喋ったらワアーと来て、また喋ったらワアーと来て、こっちが「えっ?」て思う言葉を話したらシーンとなるじゃないですけど、そういうムードの変わり方とか、そこからあるリズムとかも振付の参考にしたかも。難しいですね、上手く言葉に表せなくて。

日常の中にある、ふとした瞬間やムード。そういう日常の隙間、隙間に現れる異様な何かを掴まえて作品制作に反映されているのですね。それが構成や振付のフォルムとして現れている。

大塚 大事にしていることは確かだと思います。

 『lonely』、『春に』、『フィニッシュ』これは2015・16年で創た作品では、やはり今お話していたところから制作上のスタンスは一貫して創られていたのか、それとも、何か変化はありますか?

大塚 今振り返ると結構毎回バラバラなような気がします。まだ振付を初めて、コンテンポラリーダンスについて考えだして日が浅いからかもしれませんが、自分でも移り変わりがすごいと思います。まだ手探りな部分が多いです。特に学生のときに作った、この3作品は、そのとき限りの特別なもの感がすごい。そのときの自分をそのままうつしたもののような気がします。けれどきっと何かを毎回学んでいるんだと思います。そういう点で恵美さんはすごい尊敬していますね。いつも筋があって、いつもシンプルで、無駄なものがない。何が必要で何がいらないのかを分かっている。だからきっとあの鋭さがでるんですよね。あの、今回の授賞式でも少しだけ話しましたが、自分はわざと複雑化させようとする部分があって、話を盛ってみたりとか、自分が気に食わない部分を減らしてしまったりとか、わざとぼやけさせてたりとかしてしまうときがあるんです。それが作品にもそのまま投影されてしまっていると思います。無駄な物があることはすごく自分でも分かるけれど、どれが無駄かがいまいちはっきりしないんです。見極める力がまだわたしには無いんです。

大塚さん、ソロの作品とかはこれまでは…

大塚 一度作ったことはあるのですが、それはパフォーマンスよりで自分なりにお客さんが見やすいように作りました。作品としては作ったことはまだありません。けれど、近々ソロ作品を作る準備をしていきたいです。それでもう少し自分の身体に自信を持ちたいです。ずっと逃げていた部分なので。

どちらかというと振付をして、構成の中で自分の表現を考えるのが合っているんですかね?

大塚 はい。今の自分の力だとその方が合っていると思います。そこには大人数での学校ダンス出身というのも影響しているのかもしれません。なんとなく大学に入学してから学校ダンス出身というと風当たりが強い感じがあって、わたし自身もそれを卑下していた部分がありました。が、あの素直な気持ちいい(もしかしたらださい?とも言われている)ダンシングもわたしは自分のコンテンポラリーダンスにいれなくてはいけないような感じがしているんです。そういう意味でも構成の中での表現の方がしっくりきているのかもしれません。

今後の抱負をお聞かせください。

大塚 やはり一つは一人で身体と向き合うことをしたいです。作家でいう自身の文体を得ることだと思うのですが、それを静かにコンスタントにやっていきたいです。それがソロ作品に繋がっていければいいと思います。もう一つは物語にそって作品を作ってみたいです。クラシックバレエの古典の作品でもいいし、アンデルセン物語でも、戯曲でも良いのですが2時間くらいのものを作るのには興味があります。物語とか伝説とかお伽話が結構好きで、そういうのもやってみたいかなということを始めて人に言いました。恥ずかしいですけど。いつかできれば…

いいですね。是非やってもらいたいです。ありがとうございました。


  

7月25日(火) 7:30PM
「ダンスがみたい!新人シリーズ15」受賞作品の再演

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大塚郁実 『It isn't a story about war.』
振付・出演:大塚郁実 
出演: 髙宮梢, 仁田晶凱, 三田真央, 安岡あこ, 渡會慶 
音響:牛川紀政

>「ダンスがみたい!19 白鳥の湖」ホームページ