Special Interview Vol.026
深谷正子 インタビュー
深谷正子 インタビュー




























Q:ダンスの犬ALL IS FULLという不思議なネーミングですが、どのようなスタンスで活動しているのでしょうか?

A:2000年までは深谷正子ダンスカンパニーとして、主に舞台を中心に活動してきましたが2001年ダンスの犬ALL IS FULLに改名、活動の場もオープンスペースに移しました。深谷のソロパフォーマンスと複数のメンバーに深谷が作・演出というポジションで作ってゆくという二つの柱で活動しています。

Q:劇場からオープンスペースへ活動の場を移した理由は?

A: まずそこに身体があり、その身体の奥深くへ、表現者も観る者も入って行くダンスをしたいと思ったからです。振り付けがあって、それを重ね空間を作り構築し てゆくダンスから、動かす身体と動かそうとする意志のありさまをまず提示し、すべてがそこから始まるのだということです。

Q:ジャンプしたり回ったり、ステップを踏むダンスではないのですね。

A:そうです。日常的身体動作、それがダンスの犬ALL IS FULLのダンスの種と考えています。

Q:それはどういうことでしょうか?

A:我 々は日常、歩く、走る、手を挙げる、振り向く、立つ、座る、寝る等々様々な動作、動きをしています。これらを一つの点と捉え、表現者の呼吸(生理、心理) などで成長させていきます。大切なことは表現者が所有しているファクターを外側に向けて、あるベクトルをもって表出させていくのです。

Q:あるベクトルを持ってというのはどういうことですか?

A:それは作者あるいは作品がベクトルを決定するのです。

Q:具体的にイメージできないので、今までの作品で説明してもらえますか?

A:そうですね。
2004年に麻布dieプラッツで発表した「よるのそくど」を例に挙げてみましょう。出演は岡田隆明、縫部憲治、成田優美子、玉内集子。作・演出深谷正子、衣裳田口敏子、照明藤原太郎のメンバーです(ダンスの犬ALL IS FULLの群の作品は、この「よるのそくど」からシリーズが始まります。途中斉藤直子が加わり、今日まで続行中です)。空間両サイドに金属パイプを設置し、ダンサー4人がそれぞれ木綿の糸を持ち、20分かけてパイプに糸を通して、張っていきます。その間、4人の糸を張る動作は共鳴したり反発したり、いろいろな偶然が立ち上がり、動きそのものが熱していきます。

Q:糸の張り方は決められているのですか?

A:それは、全く指示しておりません。その日の一人一人の状態により、動く人が判断して進行していきます。ですからリハーサルをするたびにできあがっていく空間 が異なりますし、その後に立ち上がっていく空間の工程もその時により違ってきます。後で起きる事件も、その日の糸の張り方が決定するのです。それは偶然でもあり、必然なのです。

Q;次の展開を教えてください。

A:糸を張っている間、喪服を着た女性(母親と見えるよう設定)が山のように積み上げた(プラケース入りの)CDの横で、じぃっと座っています。糸が張り終えると、彼女がCDを何カ所かに積み上げていきます。ダンサーは中央に集まり、先頭人物が次々と変わりながら行進していきます。

Q:空間を人物が移動したら、糸はどのようになるのでしょうか?

A:人が動くことにより、糸は無残にプツプツ切れると同時に、絡み合った糸に強いテンションがかかり、積み上げられたCDの柱は崩れていきます。また人物に絡みついた糸が、遠く離れたCDの柱にも力を加えることになり、あちらでも、こちらでもCDを引きずり、空間に広がっていきます。

Q:この時ダンサーはどのように動き、踊るのですか?

A:まずダンサーには言葉と時間構造を渡します。
たとえば喪服を着た女性には、「案外あっけらかんとして」、「際どいところをすり抜ける」、「闇に飛ぶ」などの短い言葉を抱え込み、ひとつひとつ吐き出すよ う指示します。言葉を抱え込んで、吐き出そうとするダンサーのなかでは、言葉による重みが身体を動かす力に変化し、身体が反応します。また、他のダンサーに預ける言葉は、「正午-蒸発した影」、「たどたどしい実感」、「穴をあけるのははみ出るための助走である」などです。これらの言葉は、 時間進行にともない、空間における役割を担っていきます。たとえば、「闇に飛ぶ」という言葉で、その場面に動かないおもりを作る役割を担う、という感じです。

Q:言葉による重みで身体を動かす事がダンスと捉えていいのですか?

A:はい、そこから今を支えるダンサーのリアリティを、生理と意志で連続性をもって身体を動かしていく。それが単なる動作とダンスをわけるキーワードだと思っています。

Q:4人のダンサーによる作品ですが、それぞれの関係を表現したいのですか?

A:群の作品ですが、関係性により作品をたち現すのではなく、一人一人の存在の中を掘っていくことで、関係が必然的にあらわれてくるのを狙います。関係そのものは少し俯瞰したところから見ていくという構図がほしいのです。

Q:全体がとても抽象的で、取っつきにくい感じがしますが。

A:そうですね、行き着くところはとても抽象的なところですが、その分見ている人が、それぞれの断片の中から、自由に想像できるように、多くの余白を作りたいと思ってます。ですから、その分目の前に見える要素、喪服の女性、木綿糸、CDケースなど、どこにでもある材料で空間を作り上げ、より具体的に感じられる動機を提示したいのです。

Q:深谷正子さんのソロのパフォーマンスの方はどのようなものですか?

A:1976年 より「動体証明」シリーズを開始しました。コンセプトそのものは今でも同じです。「そこに体がある」、「カタマリとしての体」からダンスに温度を注入する ことが基本コンセプトです。もし変化したとしたら、時代の変化、移行という外側の流れの影響が大きいのですが、私的身体からの発信から、設定を外側に置 き、作意を前面に出して、発信したいという移行期をむかえているところです。ソロパフォーマンスの方が、よりマニアックになりがちですが、最近少しほどけてきているように思います。

Q:今のダンスシーンについては、いかがですか?

A:ダンスだけに限らず、すべて二極化しているような気がします。TV番組、CM、映画、小説、美術、音楽などすべてです。一方ではいろいろな意味での「軽さ」にどっと流れ、マンガチックに、色の氾濫、型のデフォルメ、素材の多様性、そして表現の時間の細分化と、受け手の忍耐力のなさを前提に創り上げられている文化。遁走文化だと思います。
しかし一方では、じっくりと腰を据え、しっかり自分の考えや完成に根ざし余分なことはしっかり排除してものを見ていこうと、行動している人も少数ではあるけれど存在していると思います。
ダンスの犬ALL IS FULLも人とお金が動かないことにがんじがらめにならず、多少の明るさを抱えて、しかもしたたかに、笑いながら存在したいと思います。

Q:今までに発表された作品を教えてください。

A:「PHASE1~4」「根 NE」「陰謀のように打った寝返りを」「月を喰う」「アリス1~4(夏至・深呼吸)」以上が深谷正子ソロ
「残」「骨」「よるのそくど」「裂けてゆく月#2」「SO WHAT 螺旋」 以上深谷正子作・演出です。

Q:次の作品を楽しみにしています。今日はお忙しい中ありがとうございました。

A:ありがとうございます。

次回公演

深谷正子 『SOUP』

ダンスがみたい!12 参加
8/14(土)
※細田麻央さんとの二本立てです。


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