空っぽ人間interview
(鈴木ハルニ&大澤遊対談)
—空っぽ人間<empty persons>についてお聞かせください。
大澤 空っぽ人間は役者の鈴木と演出の僕とで主宰しているユニットで、大学在学中に結成というか始まりました。なんとなく(笑)
鈴木 なぜ二人で主宰しているかというのは… 単純に二人で始めただけ。 大学で一緒で、大澤がオレを誘った。
聞き手 他にも演技コースの人がいた中で、なんで鈴木くんだったの?
鈴木 単純に趣味が合ったんだよ。
大澤 そう、よくしゃべってた。
鈴木 演劇的な出会いじゃなくて、酒が好きで、野球が好きで、よく話したっていう、それじゃない?
大澤 なんとなく声を掛けてみたんだよね。
鈴木 大澤の持っている知識とかってオレには全然ない。古典的なものとか、それが単純に面白いなって。第壱番は野外でやったんだけど、野外でやりたいって言ってて、それがいいなって。
大澤 劇場が嫌いなんだよ。
聞き手 次回公演も劇場でやるのに劇場が嫌いって(笑)
鈴木 でもそこが面白いなって。今でもオレは空っぽ人間は野外でやるっていうスタンスがあると思う。
大澤 野外でやった第壱番の公演は自分ではすごく面白かったと思ってる。15分くらいのものだったけど。
鈴木 大隈講堂前、ゲリラでね。
大澤 そうそう、空っぽ人間の企画書に常に書き続けているのは、事件なんだってこと。いま目の前で起こっていることが日常で起こった事件でしかないってこと。だから非現実的なことがこの場で起こっているんじゃなくて、現実の中で起こりうること、それを見てしまった。
鈴木 それは大澤の演出のスタイルなんだよね。今でもずっとある。芝居をお芝居として見せるんじゃなくて、そこにたまたま居合わせた人たちが見る、とか言いながらチケット売ってたりするんだけど(笑)
聞き手 日常の中の非日常ってこと?
大澤 非日常にしたくない。
鈴木 迷い込んじゃった的な感じ(笑)
大澤 たまたま起こっちゃったってことがすごく大事。
鈴木 ようはそこなんだよな。
大澤 まあ、芝居をやっている時点で全然たまたまでなんかないんだけど。
—空っぽ人間<empty persons>というユニット名の由来は?
大澤 ピーターブルックの「何もない空間」。大学でわざわざ演劇を学んでいて、なんかそういう演劇的なものを名前に入れたかった。それだけだと思う。
鈴木 そうそう、それでエンプティースペースからエンプティーパーソンズに。それを無理矢理日本語訳したのが空っぽ人間。
大澤 しかもパーソンズ。文法的には間違い。
鈴木 パーソンは複数にならない(笑)
大澤 そこをあえてパーソンズにしたのは意味があって、個々ということ。グループじゃなくて、毎回毎回違う個々が集まってくる。
鈴木 ようは劇団じゃないんだよね、ユニットだから。
大澤 その中で鈴木とはずっとやっていきたいねって話しになったから二人主宰になった。
鈴木 あれね、二人主宰ってさ、学校に団体登録を出す時に責任者が二人必要だったからじゃない?
※ 団体登録をすると学校の教室等を借りて稽古ができるようになる。
大澤 そうだ、代表と取締役だった(笑)
鈴木 二人で主宰しているのは、そういった形式上の問題があって、それの名残だよね。
大澤 そうだったね(笑)それでだ、二人主宰(笑)
聞き手 劇団ではなく、固定のメンバーがいないというのはどう?
大澤 そこはどうなの? 毎回違う役者さんが来て、もちろん何人かは何度か出てもらったりしているけど、それは役者としてはどうなの? 僕は非常に面白くて、毎回楽しんでいるんだけど。
鈴木 いやいや、面白い、役者としてはね。同じ主宰という立場で言うとすれば、これは二人主宰とは言え、大澤のやりたいことをやる団体だとオレは思ってるからいいんじゃないかな。
聞き手 他の劇団とかでは、毎回違う役者を揃えてやるというのがやりづらいという話しも聞きますが…
鈴木 どうなんだろうね。合う合わないはやってみないとわからないし。オレの場合はもうひとつの劇団があるから、空っぽ人間は固定のメンバーじゃない方が面白い。二つとも固定メンバーだとつまらないかも。空っぽ人間でメンバーを何人か集めて固定にしてしまったら、面白くなくなってしまうと思う。たぶんこいつすぐ飽きるし。
大澤 (笑)そうだね。稽古ですら飽きちゃう時もあるからね(笑)
—次回の公演も前回同様アクセル・ハッケの作品がもとになっていますが、続けてやりたいと思う理由は?
大澤 面白いから。僕ね、ハッケの作品というよりも、ゾーヴァの絵に惹かれているのかもな。
鈴木 面白いって感覚はそれぞれ違うと思うんだけど。
大澤 原作が面白いと思った時は、僕がなんか語るよりも、読んだ方が早いと思う。変な先入観を持って読んで欲しくないから。
鈴木 じゃあなんでそれを舞台にするの? ただ紹介したいだけだったら、読んでってことだけでいいと思うけど。自分の感じた面白さを芝居という形で伝えたいと思うから、やるんじゃないの?
大澤 そうだね。
鈴木 そこなんだよ。何で面白いと思って芝居化したいか。見に来てっておこがましいくらい言う訳じゃん、それの原動力って何? ゾーヴァの絵だってネットで検索すれば見られる訳じゃん。
大澤 ゾーヴァの絵を見せたい訳じゃない。ただ感動していいなと思うだけ。
鈴木 それはなに、共感したいってこと? お客さんと見終わった後にゾーヴァの絵って良かったでしょって。それを自分なりの形で見せたいってことがあるの?
大澤 自分の感じたことだよね。
鈴木 だからそこだよ、オレが聞いているのは。
大澤 それはわからない。だから舞台にしてる。言葉にできないから。
鈴木 だったらそれが答えだよ。
大澤 こういうものなんだよって。僕の感じたものは。
鈴木 そこをあえて聞くけど、それを言葉にするとどうなるの?
大澤 それを言葉にできたら僕は評論家になってる。
鈴木 そこをあえて、掘り下げてみてよ。
大澤 そんなことしたら何も面白くないよ。つまんない答えが出てくるだけ。
鈴木 それだよ、それが今の答えだよ。見てる人はそれが聞きたいんだと思う。その答えが。言ったらつまんないですからねって、それで答えだと思う。評論したらつまらないじゃん。
大澤 つまらないね。
鈴木 今言ってることが、大澤遊の演出論なんだろうね。面白いなって思ったり感じたことを紹介したい。紹介したいだけなら本や画像を渡すだけでいい。でもあえて芝居をしてる。それを説明してといっても説明できない。その説明できないのが演出だと思う、たぶん。だから芝居やってるわけでしょ。
大澤 …説明できない演出でいいのかな??
鈴木 でも、演出って説明できるかどうかじゃなくて、体現できるかどうかだと思う。
大澤 でも僕の作り方ってさ、鈴木は何度もやってるからわかると思うけど、相当役者に委ねるよね。
鈴木 そう。
聞き手 自分で本の読めない役者はダメなわけ?
大澤 そんなことない。本が読めないんじゃなくて、自分のやっていることを信じられない役者がダメなだけで、やってることを信じてやり続けれくれれば、絶対にいいものができる。それだけ。僕が稽古場で求めているのは。
鈴木 でもね、役者としては、こういう演出って厄介なんだよ(笑)これはね、もともとオレの役者観のベースにあるんだけど、役者って演出の駒であるべきだって考えがどこかにあって、それは演出が何を求めているかってことを察して芝居をやるのが役者だと思っている。でも違うんだよね。本読ませて感じて、何を感じたか。(笑)
大澤 それを出してくれればいい。
鈴木 それが難しいんだよ。いま言葉にするのが難しかったように。
—今後の空っぽ人間<empty persons>についてお聞かせください。
鈴木 今後の空っぽ人間、オレにとっての空っぽ人間は普段できないことができるところ。空っぽ人間が本線にはならないかな。
大澤 僕も本線にはならないね。
鈴木 やりたいことがあってできるときにやれるところ。役者としての自分を再確認する場所。息抜きというか。そういうときにいいものができるんじゃないかな(笑)
大澤 息抜き的なこともあるね。息抜きと言っても、やっているときは本気だけど(笑)
鈴木 オレと大澤にしかわからないことかもしれないけど(笑)やるからには100%だよ。
大澤 息抜きかもしれないけど、でもたぶん一番大澤遊らしさを見られるところだと思う。
鈴木 それはそうだと思う。この団体はこいつのやりたいことをどうやるかって団体だから、それはそう。オレはその手助けをするかどうかってことだから。なにげに結成から考えると10年近くなるよね。
大澤 2002年だよ。
鈴木 でも8年でしょ。もうすぐ10年。
大澤 長いなぁ。間はあいてるけどね。
鈴木 こういうスタンスでいいと思う。
聞き手 じゃあ10年目には何か大きなイベントを。
鈴木 ないな(笑)
大澤 それをやらないってところがいいんだと思う。
鈴木 ようは10年20年じゃなくて、演劇人生を終えた時に、70、80歳くらいになった時に、こういう団体で繋がってたなってことなのかなと思う。だって空っぽ人間で天下取ってやろうと思ってないでしょ?
大澤 思ってない。
鈴木 そういうことだよ。
大澤 天下取る必要がない。
鈴木 ということですよ(笑)
聞き手 そんなスタンスの劇団はあまりないですよ。
鈴木 でも、それがいいと思ってんだよね、オレはね。
大澤 必死になってやることじゃないと思う。
鈴木 こいつにも仕事があって、それが大切でもある訳じゃない、オレにももうひとつ劇団がある訳だし。
大澤 これやっても儲からないからね。
鈴木 それでもいいものを作ろうと思ってやってるし。
大澤 来年はどうするの?
鈴木 来年のことはわからないよ。
大澤 空っぽ人間自体は1年に1本のペースではやっていきたいよね。去年はできなかったけど。
鈴木 そういう時もありますよ(笑)
聞き手 期待してくれているお客さんもいるだろうし、1年に1本あるかないかではだいぶ違うと思う。
大澤 そうだね。頑張りましょう。これからも(笑)
次回公演
■空っぽ人間<empty persons>第伍番
『クリストキント』
11月25日(木)~28日(日)