俳優私塾POLYPHONIC主宰の演出家、石丸さち子さんに、
「ACCIDENTS 2」について伺いました。
Q1. 俳優私塾POLYPHONICについて教えてください。
A1. 私は、長い間、蜷川幸雄さんの演出助手として演劇を生み出す現場に関わってきました。その頃から、本稽古に入る前の、俳優のプレ稽古につきあったり、毎日の稽古後の俳優たちの自主稽古につきあったり、稽古時間だけでは役を掴みきれない俳優と放課後稽古をやったり、いつもいつも俳優の心と体に寄り添ってきたという実感があるんです。その経験を、これから俳優を目指そうとする人とか、もっと自分を開拓したい俳優のレッスンに、生かしたいと思ったのが始まりですね。
蜷川さんの演助を無期長期でお休みさせてもらって、自分の名前で活動を始めた時、まず立ち上げたのがPOLYPHONICです。1年間、どっぷり演劇に浸かってもらえるよう、週に4回、たっぷり稽古をしました。募集する時、経験も年齢も問いませんでしたから、全く始めての人、事務所に所属するタレント、舞台で活躍するプロたちが同じ稽古場に集まり、しかも年齢は20代前半から60代までと幅広く、なんとも心揺れて私自身が学ぶことの多い毎日でした。
一年目の終わりに、清水邦夫さんの「楽屋」を上演しましたが、真っ直ぐな演技が評判を呼びました。そりゃあもう苦労しましたけれど、真剣に役と知り合おうと格闘した後に訪れる抒情とか清潔感があったと思います。
今年は、少人数ですが、自分改革を企てる若者や、夢見る時期は過ぎたけれども俳優である自分と何とか出会おうとする女性たちと、濃密な時間を過ごしてきました。私塾ですから、とにかく、一対一。信頼を得れば、人の心のぎりぎりにまで踏み込んで、私は俳優の魅力を引き出そうとするし……。毎日が闘いみたいです。みんなどんどんタフになっていくんです。
Q2. 「ACCIDENTS」とはどんな公演ですか?
2年前、わたしが演出補として参加していた舞台が、突然公演中止になりました。ミュージカルでしたから、すでに歌稽古と振付が進み、稽古開始から1ヶ月以上が経っているのに、です。私などが闘いを挑んでも動かない事態でした。……悔しかった。長らく演劇を愛して、稽古場と劇場を自分の住処にしてきた私には、許せないことだった。初日も千秋楽も暴力的に奪われてしまったんですから。プロデュース公演ですから、出演者は皆、知り合ったばかりの人たちでしたが、真っ白になってしまったスケジュールをどうすればいいのかと途方に暮れていたのを見て、「よし! 初日と千秋楽をこの人たちと迎えよう!」と衝動的に決めて、3週間で作品選びから劇場押さえから、すべて怒濤の勢いで公演を実現しました。名づけて、「ACCIDENTS」。このタイトルを思いついた時から、きっと成功すると信じて突っ走れましたね。
友人である作家、宇野イサムさんの短篇を7本、歌あり踊りあり京劇ありアクションありでつなげて。die pratzeからはみだしそうな勢いで、最高にPOPで馬鹿馬鹿しくって、かつ物悲しく抒情的で……。アクシデントに巻き込まれた人間たちの悲喜劇は、お客さまの共感を呼びました。そして、私たちはかけがえのない初日と千秋楽を勝ち取ったんです。
そして、今回の「2」です。
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Q3. はい。では、今回の「ACCIDENTS2」は、どんな作品なんですか?
さあ、今年も一年のまとめに公演を!と、新たな作品選びをしていたんですが、何気なく、みんなが春から取り組んできたテキストたちを並べてみたら……突然人生の黒い闇に取り込まれたり、落とし穴に落ちて這い上がれない状態だったり、そんな台本、そんなシーンばかり並んでいたんです。で、閃いた。あ、「ACCIDENTS」だ!って。そして、私自身、昨年のはじめに、また大きなアクシデントにやられ、それからも大きな波風に堪えて足腰は強くなったけれど、いろんなものを喪ってしまったような、忍耐の一年だったんです。よし、「ACCIDENTS 2」と銘打って、この不況の時代に喘いで生きる自分を笑い飛ばそうと思いました。
演じられる戯曲たちは、名作ばかりです。
テネシー・ウィリアムズ、シェイクスピア、チェーホフ、岸田國士などなど。前回とは売って変わって、純演劇って感じです。俳優たちにとっては、大きな挑戦。普通なら一生演じられないかもしれないようないい役と、今、取っ組み合いをしているところ。時代が違っても、国が違っても、人が生を受けて死に至るまでの営みは、変わらない。大いなる絶望と大いなる希望、ささやかな怒りやささやかな喜び。世界を思えば、劇場はあまりに小さな空間ですが、そこに世界を思わせる瞬間を作れるのが、演劇の魅力です。
俳優たちが繊細かつ大胆に、本番を生きてくれれば、きっと、琴線に触れる時間が生まれると思います。
Q4. このインタビューを読んで下さっている人に何かあればお願いします。
もう、ただひと言。「観にきてください!」と。
俳優塾のメンバーに加えて、わたしが昨年旗揚げした劇団Theatre Polyphonicの俳優や、新国立劇場演劇研修所でWSをともにした卒業生や蜷川カンパニーの先輩などが参加してくれて、ちょっと贅沢な小劇場を楽しんでいただけると思います。
アクシデントなんかに、へこたれてはいられない。私たちは舞台で暴れます.
どうぞ劇場で一緒にいてください!
写真撮影:橋田欣典
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