ダンスを始めたきっかけは?現在どのように活動していますか?

酒井 5歳のとき、モダンダンスを習い始めました。デパートでも家でもお構いなしに歌って踊り一人芝居をして遊んでいる姿をみて、母が舞台衣裳の仕事をしている叔母に相談したのがきっかけです。
 中学の頃にはミュージカルの舞台なども経験しましたが、高校の時に「もっと私らしく踊れる場をつくりたい」と新しくダンス部を立ち上げ、舞踏やコンテンポラリーダンスというのを知りました。やはり、ピナ・バウシュを知ったことは大きかったです。あとジョン・ケージや武満徹の音楽も。そういうものを隣で教えてくれた高校の親友の存在は貴重でした。最初は自分が踊るためにソロや群舞を振付けていたのですが、だんだんと、言葉のない世界を様々な身体や音楽・照明などで紡いでいくことに夢中になっていきました。そして、大学ではダンスを体育や教育として学ぶのではなく、芸術として身体を使った空間をつくる勉強をしたいと思いました。
 大学では良くも悪くもカルチャーショックを受け、いろんなことに流され影響されながら、自分の視点をもつためにも学外で作品発表することを積極的にしていました。また、私にとってよき音楽のパートナーのひとつでもあるバンド<表現>との出会いも大学です。
 家族や周囲の人の理解と応援もあり、卒業後も振付家・ダンサーとしての活動を続けることができ今に至ります。現在は舞台での自作発表の公演や出演を軸に、母校のダンス部への指導や、ミュージックビデオなど映像での振付・出演などの仕事もしています。自らのカンパニーやグループは持たずに、<酒井幸菜>のプロジェクトとしてその時々に必要なメンバーを集め、またフリーのダンサーとして作品などに参加しています。特定のカンパニーダンサーという印象をもたれることへの抵抗や、やりたいことや必要な人数など時々で違うので身軽でいたい。いつも今度はどんな<酒井幸菜>が見れるのか、という期待を上手に裏切っていきたいと思っています。

振付家とダンサーとしての違いとは?

酒井 自分が踊るために自分で作品をつくることが始まりだったので、振付けることと踊ることはほぼイコールの感覚でした。ずっと自分のイメージした世界観の出力は私の身体を通すことがベストだと思っていたのですが、大学の卒業制作で出演せずに作品をつくった時に、できあがった作品を眺めながら「私が踊らなくても大丈夫なんだ」という実感がありました。祖母は私が出ないとがっかりしますが、笑。そこから、必ずしも自分の身体のみが表現の媒体ではない、という選択肢が出てきました。その一方で、ダンサーとしてKENTARO!!さんや岩渕貞太さんの作品で踊らせていただいたときに、自分で振付けて踊るのとは違う面白さを感じました。KENTARO!!さんの作品では、自分の作品では出さない私のキャラクターを使ってくれて振付けの中に自分の居場所をみつけられる信頼感があったし、貞太さんの『タタタ』では全く違う身体言語をどうやって喋るのかという身体で思考することが新鮮で刺激的でした。
 ダンサーとしてやりがいがあるのは、どんな振り付けでもどうやって自分の踊りとして咀嚼するか、その作業にあります。その過程で、気づくことがたくさんあります。特徴となる癖やできないこと、あるいは私がやらなくてもいいこととか。ただ、私はダンサーとしてまっさらな器にはなれない。技術力の面からいっても、何にでもにはなれないタイプ。なので、酒井幸菜というダンサーのキャラクターを前提に、それをどう引き出して使ってくれるか、それが振付家や作品との相性にもなってきます。振付家としては、作家として自らがイメージする身体のある美しい風景を紡ぎ続けたいですし、一方、部活の指導や映像での振付けなどの職業的に求められる部分ではその都度必要なイメージに対応でき、ダンサーのポテンシャルや音楽の魅力を引き出すような振付けを提供したいとも思います。もちろん、私らしさのオリジナリティをもって。

作品をつくるとき大切にしていることはありますか?

酒井 作品づくりで大切にしていることは、やらなくていいことをやっていないか・やりたいからだけでやっていないか、という点をある段階で問うように心がけています。作品のきっかけとしては、空間が重要です。「ここでこういう風景をみたい」という、空間に立ったときの身体の輪郭や温度感をイメージすることから始めることが多いです。あと、純粋にこの音楽で踊りたいなということから始めることもあります。
 私は美術家の内藤礼さんや藤本由紀夫さんの作品が好きなのですが、私も作家として日常の風景のほんのちょっとしたことを味わうための、ささやかなきっかけとなるような作品をつくれたらいいなと思っています。作品そのものはただの装置というか、そこにメッセージはかかれてなくて、どこかにある何かに触れるための仕掛けを並べておく。ある断面から急に宇宙へとつながってしまうような、ファンタジックな体験をしてほしいと思っています。

舞台芸術の現状について、どう感じていますか?

酒井 おそらく上の世代の過去の盛り上がりと比べるから、今のコンテンポラリーダンス界は元気がないように感じるのかもしれません。また演劇は同世代の若手がとっても元気ですし。でも局地的な盛り上がりは、ダンスでも常にあちらこちらであるのではないかと思います。ただ、情報はほぼ無限で価値観が多様化して、共感するものが細分化され過ぎた今の時代では全体がぼんやりしているように感じるのだと思います。大きく話題となる存在、つまりカリスマの強度は小さな範囲でどんどん増して、範囲に入らなかった側からみるとかなり歪んだ孤立した島に見える、ということはダンスに限らず感じます。でもそれはもう必然というか。
 もちろん面白い、強いダンスをする振付家やダンサーの努力も必要でしょうが、そういう原石を見つけ多少のリスクを負ってでも責任を持って磨こうと意気込むプロデューサーなど制作的立場の人の出現を期待しています。振付家やダンサー同士が集まるよりも、敏腕プロデューサーが束でダンスをものすごい大人買いしてくれたら、すごく盛り上がると思います。



今後の展望は?

酒井 とにかく続けていくこと。
 そして、次もまた見たい!と期待されるような作品やプロジェクトを発信していきたい。逃げ続けることで追いかけてもらえるように。




酒井幸菜さん、インタビューありがとうございました!





酒井幸菜 Yukina Sakai
「ダンスがみたい!13」参加作品『背の骨』 『夜の屑』 会場/d-倉庫
8月15日(月)
構成・振付/酒井幸菜 出演/安達みさと、中村未来
85年神奈川県茅ヶ崎市生まれ。5歳よりモダンダンスを学ぶ。東京芸術大学音楽環境創造科卒業。
しなやかで繊細なダンスには定評があり、数多くの舞台に出演。微細な演出による空間的な作品を制作し、美術館などでの発表も行う。
また、さまざまなアーティストとの共同制作によるパフォーマンスをはじめ、演劇作品やミュージックビデオ、広告への振付・出演など幅広く活動している。
問合せ/info@sakaiyukina.net

「ダンスがみたい13」Website
sakaiyukina official web site

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