獣の仕業結成のきっかけは? A.大学の演劇部で出会ったメンバーで結成しました。最後の年に卒業公演を打ったのですが、そのときに当時の自分たちの中で凄く納得した作品が作れたんですね。 千秋楽では、お客さんからの拍手がずっと鳴っていて初めてそんな経験をして。 こんな作品を・お客さんとの出会いを、これからも続けていきたいと・そう思い翌年に結成しました。 社会人劇団なんですよね? A.枠組みとしてはそうです。 団員に学生が2名いるのですけど、それ以外のメンバは全員会社員で平日は普通に働いています。 私たちが社会人劇団と知った方からたまに「芝居は趣味ですか?」と聞かれることがありまして、何とも複雑な気持ちになるのですが、一般的に仕事を持っているかいないかが、芝居に対しての本気度になってしまうみたいですね、でもそれはどうでしょう?芝居の作り方って・それだけではないんじゃないかな、と思っているんです。 私個人は、平日働いて・仕事をして、その暮らしの中で感じたことや葛藤を大切にしたいんです。 自分にとって劇団で芝居を作るのはとても自然なことなのに対して、社会で仕事をすると言うのは凄く苦手なことです。 社会人5年目になりますが上手く行かないことが多いし怒られてばかりです。 一週間連続で終電で帰ってくたくたになって「畜生辞めてやる」なんて良く思うんですけど、思うだけで多分辞めないんですよね。 そんな毎日が自分にとっては社会にフィットしていく手段というか、だから同じくらい大切なものです。芝居と同じように社会に自分がコミットしていくために必須なんですね。 今の仕事をしていなければ出会えなかった人、気付かなかったことが、見ることができなかったものが自分にはたくさんあります。 普通に仕事をする・それがどれだけ大変なことか、どれだけ尊いことか。 だからつまり、労働は尊いですよ。普通の人たちが一番凄いんです、それを忘れたくない。 芝居に打ち込んでも、そういう「普通」にフィットしてくことは辞めたくないなと思っています。 もちろん芝居の最適な作り方はカンパニーによって違いますが、少なくとも我々にとっては、職を持っていることは良い方向に働いていると思います。ざっくり言うと近頃、団員たちの芝居にも深みが出てきたと言いますか、多分そろそろ中間管理職なんですね(笑) あとは違う視点で話すと、芝居作りをしたいけれど、仕事を辞められなくて芝居を諦めてしまった人って・少なくないんじゃないかと思うんですよね。 そんな人たちに我々の存在が伝わってくれたらいいな・と思っています。 だって、それは凄く勿体ないこと。芝居に殉ずるには仕事は障害でしかない・そんなことはないんです、絶対。仕事をしているからこそできる芝居があるはずなんです。 芝居作りのモットーは何ですか? A.ここ数回のテーマはリアルであること・だと思います。 と言っても一般的なリアリズムとは恐らく違っていて我々は言い回しも大袈裟だし急に踊ったりするんですが多分、私たちは、日常の言葉や表現よりも、もっと人間として本質的な表現があると信じているのだと思います。 その方がリアルになれると。 これまでは人間の強い葛藤や心の震えに向き合うために殊更に悲劇的な物語を作ってきたのですが、次回公演からは物語をなるべく等身大の役者の生活に近づけていきたい。獣の仕業の第二章・と言ったところです。 何故かというと、去年の震災が作家としての私に強く影響を与えています。 3月11日に私はちょうど本番の前日で東京の劇場にいたのですが、強い揺れだな・と思っている内にあっという間に日本がめまぐるしく動いて、電車も電気も止まってたくさんの人が亡くなって。私は何も理解できずただ呆然としていました。 まもなく1年が経とうとしていますが、東京はまるで日常を取り戻したかのようになっています。 でも本当はなにひとつ変わってはいなくて、なにひとつ良くなってはないなくて、みんなもそれは十分分かっている、けれど普通の生活をやめることなんてできない。普通の生活が何より大切だからです。 絶え間ない努力を重ねて、何とか普通を続けていくことしかできないんです。 そして私は次の公演のために、過去の脚本を何気なく見返しました。そうしたら今まで書いてきた悲劇の物語が、途方もなくフィクションに見えた。勿論当時としては確かなものとして書いているのに、フィクションよりも嘘みたいな悲劇が現実に起こってしまったから、もうそれまでの作品は全部、今までと「ちがうもの」になってしまったんです。 その感覚が、今までの作り方を辞めようと・等身大の体から作っていこうと思ったきっかけです。 普通が一番尊いのだと先ほどお話しさせて頂いたことにも繋がるのですが、別に私は今回のことで物語を否定したわけではないんです。 むしろ、より物語の強さを信じることにしたと言いますか、普通の暮らしをする・普通に生きている人たちの体の中にこそ、本当の物語が宿っているのだと、今は思っています。ひとりひとりの体の中に、何にも代えられない物語があるのです。 私は作家として、それに敵わない。そしてもっと人間を、普通の暮らしを、リアルな役者の心身を、もっと信じて愛して作品を作っていこうと。作・演出の私は、それを引き出すための風景を用意することに専念しようと、考えています。
■■■ 獣の仕業『せかいでいちばんきれいなものに』 3月10日(土)13:00&16:00&19:00、3月11日(日)13:00&16:00 会場:die pratze 前売=\2,000 当日=\2,000 予約・問=swz@live.jp(獣の仕業) 作・演出=立夏 出演=雑賀玲衣、藤長由佳、小林龍二、手塚優希、柳田怜子、水川美波 「それでは誰か、彼について・知っていることは?」ある場所に集められた人々は「彼」を語る。 が、本当の彼を、誰も知らない。そして彼の正体が明らかになる。