|
前納依里子 Yoriko Maeno
1983年生まれ。東京都出身。
ミュージカルを見て舞台に憧れ、14歳より声楽とバレエを始める。
東京ディズニーリゾートダンサー、ショービジネスの舞台を経て、お茶の水女子大学でコンテンポラリーダンスに出会う。
加賀谷香、二見一幸らに師事し、数々の作品に出演。新国立劇場の公演では、加賀谷香のアンダースタディも務める。
2008年より自身の活動に力を入れはじめ、作品創作や、クラブやライブハウスなどでパフォーマンス活動を始める。これまでに全国6都市で作品を発表。
2012年1月には、自身のカンパニー「メモリの童話集」を立ち上げる。
近年は、映像作家によるダンス映画への出演や、他ジャンルのアーティストとのコラボレーション、演劇作品への参加など、活動の幅を広げている。
2008年秋田全国舞踊コンクールにてあきたこまち賞受賞。
2011年9月、お茶の水女子大学大学院修士課程修了。 |
私は当初から、舞踊家としてのソロ活動よりも、様々な個性や能力、分野の力が融合した、総合的な舞台作品を創りたいと考えていました。ソロでできる範囲というのは非常に限られるし、多くの人の力を結集することで、想像を超えた大きく豊かな世界を創ることができるからです。2012年1月に、スタジオ・パフォーマンスで最初の公演を行いました。
カンパニー名の「メモリ」は、「メメント・モリ」という言葉からとっています。「死を思え」という意味です。私は踊りを始めて以来ずっと、家族に大反対を受けていました。そのときからずっと、数年後、下手したら明日死ぬことを考えながらやってきました。生と死は紙一重であり、細い1本の血管と血管をつなぎ替えただけで人間は機能しなくなります。この思想は、より生を強く、温かく生きるための私にとっての根本的な考え方です。それを第三の個人、「メモリ」という、深い森に住む謎に満ちた少女、生きているのか死んでいるのかもわからない生命体をイメージして名付けました。
|
|
今回の作品「Utopia」は、どのような経緯で創作されたのでしょうか? |
価値観というものはとても難しいもので、そこに強靱な自己愛がプラスされて関係が破綻する。それは決してお互いが望むところでなくとも、そのような事態はこの世の中数多く存在します。国家間の紛争や軋轢を見ていてもとても哀しい気持ちになります。
人はどうして対立ばかりしてしまうのか。特に現代は多様化の時代です。その中で、異なる価値観をすりあわせ共存させるということは非常に大切になってきますしよく言われることですが、まずはそのような態度をとるスタートラインを、個々人が考えるべきだと思います。
私にとってそれは、凶悪犯罪者と呼ばれるような人たちにすら、愛の眼差しでもって見られるようになる、そのために必要な意識の立ち位置、出発点を考えることでした。そのリサーチの為に、殺人事件の刑事裁判も傍聴に行きましたが、非常にいい経験となりました。
今回の作品では、自己愛にまみれながらも人の愛を求める哀しくもとても人間的な人物ばかり登場します。彼らが織りなす世界とその混沌の美しさを描きたいと考えています。
|
チラシのお花がとても印象的ですね。タイトルとの関連を含めてお聞かせください。 |
まさかのFacebookで、中高時代の同級生と久しぶりにつながり、彼女がとても素敵なシルクフラワーを製作していることを知り、迷わずお願いしました。
私にとっての平和の灯火とは、底の底まで落ちたときに宿る一筋の光です。だから彼女には、「死体が転がる戦場に、一輪だけ咲き残ったお花」というイメージを伝えました。
打ち合わせをしながら、彼女が植物や花の華やかな生の部分と、朽ちていく死の部分の二律背反、真の意味での花の美しさとは何なのか、ということを強く意識していることを知り、絶対にいいチラシになると確信しました。
チラシデザインの方の尽力もあり、想像以上のものになったと思います。写真家の方にも感謝です。
|
前納さんがダンス、あるいは舞台に求めることは何でしょうか? |
この数年ではっきりしたのですが、私はダンスというよりも、身体による嘘のない表現を求めているのだと感じます。19歳のときにディズニーランドで踊り始めて以来、自分の進む道に迷いながら、声楽、ミュージカル、オペラ、ジャズダンス、シアターダンス、バレエ、コンテンポラリーダンス、即興と、かなりいろんなことをやりましたが、結局どれも根本は同じだし、どれに決めるつもりもないというところに至りました。
身体表現においては、身体や動きが嘘をついていないことが、ジャンルや振付スタイルや技術よりも遙かに重要です。芝居であれ同じです。隠された無意識や精神的側面が、高度な透明度で動きと身体に現出する表現を探しています。そのような部分を、観客がリアルタイムで自分の目と耳、身体で体感し、共振することに、舞台という複製保存のきかない芸術の醍醐味があるのだと感じます。
そのような強度と透明度の高い身体表現と、美術や音楽、衣裳などの要素が絡まった豊かな世界を旅したいのです。
|
この作品後、まもなく文化庁の派遣研修員としてベルリンで研修されるとのことですが、今後はどのように活動されていくのでしょうか? |
そうですね、私もベルリンは初めてなので、正直未知数ですが、私がこの5年間で日本で一人で活動を始動して今の形まで広げられたことを糧に、向こうでも同様、自分の足と身体で様々な場所でパフォーマンスをして人との出会いを探し、活動の幅を広げていきたいと思っています。ダンススタジオに受け入れは決まっていますが、一人のアーティストとしては、何の後ろ盾もない状況なので不安もありますが、やれるだけのことを体当たりでやってみようと思います。
日本のダンサーの状況はかなりひどいもので、私もバイトをかけもちしながら、睡眠時間を削って相当のストレスの中でやっています。今回関わってくれているみんなも、ほぼボランティア状態です。ヨーロッパの歴史に支えられた文化芸術を取り囲む環境については、早い内に一度肌で感じておく必要があるだろうと考えていたので、今回の助成は非常にありがたいです。
ただ、ヨーロッパにこだわるつもりは全くなく、長期的には東南アジアやアフリカのような開発途上国で、踊りや舞台を通じて関わっていくのが大きな夢であり目標です。絵空事のような話ではありますが…。その上で、日本で今がんばっているダンサーや舞台仲間のみんなに、少しでも活躍の場を還元できるようになったら最高です。
今、日本は変化のただ中にいます。SNS社会は以前よりも草の根の声をあげやすく、声も広がりやすくなっています。舞踊家や振付家も、自分たちの状況や周りの環境を変えたいのであれば、政治的・社会的な広い視野を養い、声をあげて他者や他分野へ切り込んでいくことが必須だと感じます。
ベルリンでの研修が、その地盤づくりになるように、精一杯やってこようと思っています。
メモリの童話集 次回公演
Utopia
8/16(金)~17(土)
[会場]日暮里d-倉庫
tel > 080-5009-8160 (制作/畑)
公演詳細 > 公式HP
|
8/16 |
17 |
14:00 |
|
● |
18:00 |
|
● |
20:00 |
● |
|
|