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受賞者の発表
新人賞 COLONCH
オーディエンス賞 井田亜彩実

審査員による講評
志賀信夫
高橋森彦
貫成人

投稿
宮田徹也

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ダンスがみたい!「新人シリーズ11」審査員による「新人賞」と観客投票による「オーディエンス賞」は下記作品に決定いたしました。おめでとうございます。


新人賞
COLONCH「エスケープ」



オーディエンス賞
井田亜彩実「魚は痛みを感じるのか?」

2枚とも写真(c)前澤秀登








批評家、編集者。舞踊、文学、美術などについて『TH叢書』『Danceart』『Dancework』『Invitaion』『図書新聞』などに執筆。舞踊学会員、舞踊批評家協会員世話人。テルプシコール「舞踏新人シリーズ」講評者、ディプラッツ「ダンスがみたい」、アサヒアートスクエア、シアターカイ国際舞台芸術祭などの企画・審査、JTAN会員。批評誌『Corpus』(コルプス)責任編集、メールマガジン「maldoror」発行人
サイト「舞踏批評」主宰 http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Stage/4320/。編著『凛として、花として―舞踊の前衛、邦千谷の世界』、『フランス語で広がる世界』、『講談社類語大辞典』


  総論
概して今回はある水準を保っていたというのが、審査員共通の感想だった。おそらく、自分のやりたいことと自分の技術が見えていて、それに見合った作品を作っている。コンテンポラリーダンスは、いわゆるダンスの技術がなくても成立する。そう認識する人はその範囲で表現を考えている。技術がある人たちはそれを生かしている。その意味では、自分の枠をはみ出そうという実験性、挑戦は少なかったかもしれない。
ジャンルは舞踏が一人というのが少し寂しいが、インド舞踊やバレエのアレンジもあり、楽しめた。また、今回男性のソロの挑戦が目立った。さまざまなグループでも活動しつつ、ソロとして立とうという意欲は、男性女性問わず歓迎したい。というのは、やはり表現というのは、最終的に一人で立つかどうかだという思いが僕にはあるからだ。大勢で構成されるダンスも意味があるが、根源的には一人、自分の身体に問いながらつくるという観念がある。それでこそ、身体でしかできないものが生まれるのではと思う。
男性のソロはいずれもコンセプトがしっかりしている。しかし、体がそれに追いついていないところがあるかもしれない。先日見たアクラム・カーンの舞台は、映像、美術、音楽いずれも一流で凝っているが、何よりそこで踊り続けるカーンの体がしっかりと伝わってきた。それがなくては、コンセプトだけ、美術セットだけが目立つ。音楽に対しても、それに拮抗する体、逞しい、強いとか技術ではなく、体自体が存在として拮抗する必要がある。
優れたダンサーや振付家は、来日するいい舞台や展覧会などを見に来ていて、出会うことが多い。自分の先生や知り合いの舞台だけではなく、常に優れた舞台や作品に触れて、感じてほしい。

1/5
COLONCH
冒頭、踊り続ける動きを、一秒ない切り取りで見せるかっこよさ。音もインパクトがあり、前にきて並び、一人一人のソロをつなぐ。よつんばいの一人の股くぐりからの展開も秀逸。ホリゾントの逆立ち。いずれもメリハリがあり、音も強いリズムと静かさなどの使い分けが見事だ。
石山優太
踊れて魅力的なダンサーのはずだが、1分程度のネタを次々と踊るだけで、落ち着かないし、核になるコンセプトも感じられないのは残念。踊れるダンサーの陥りがちなモードではないだろうか。
KEKE
ダンス技術はなく、そういった意味での魅力は弱いが、まじめにまっすぐ体で表現しようという意欲が伝わる。ジミヘンの音という選択も合っている。
神田彩香と夢見るマートルズ
幼稚園の遊戯といった印象のダンスを次々と展開する。そのため、いっそゴスロリかスモックなどのコスプレをするともっとしっくりする。表情を消しているつもりだろうが、これはむしろほほ笑んだほうがいいと思う。

1/6
Flexible Dance Circuit

OHPを使ったアイデアは面白く、体に存在感はあるが、ダンス自体は弱く、アイデアもネタで終ったという印象だ。踊らなくても、映像の中でも、どこかで体が感じられるというものがほしい。
岩沢彩
非常に踊れるダンサーだが、表現というものがあまり感じられず、スポーツ的な印象をもった。
A+
男1人と女2人の三人組で、1人がやたら踊るが、もう1人の女子がなんとなく気になる不思議な存在感がある。
杉田亜紀
後ろ向きのよつんばいで登場し、かなり床にべたりと這うため、身体がよく迫る。後半、床にマイクを二つ置いて四角い空間に身体の音を聞かせようとしたが、それはもう一つ効果が出ずにおしかった。

1/7
プロスペクト・テアトル
フランス人男性と日本人女性2人。冒頭、3人が上半身裸身(女性は胸を隠している)でうつぶせた姿、3人の両手と背中が暗転から徐々に立ちあがるのは実に美しかった。フランス人ソロは武道などの動きで、身体は見事だが、踊りとしては迫らない。女性たちが絡んでも同様だった。
斎藤英恵
上手ホリゾントの椅子の上を移動していくが、静かに踊らない動き。後半、一瞬踊ったときに、かなりトレーニングされた踊れるダンサーであることが垣間見えた。
水越朋
上手の壁に向い体が崩れ落ちていく。ごろごろ後ろ向きに転がって、下手で首立ちし、足の踊り。横たわって腰だけでバランスをとって、暴れる踊り。下手手前に舞台
を向いた三味線弾きが、単音やリフなどをテンションをとって鳴らす。人間の葛藤そのものが立ちあがって魅力的だった。
7g
チュチュを着た3人がバレエの動きをパロディックに壊して踊る。黒い長いワンピースの女が舞台正面に横たわってオルゴール。その上でバレリーナ人形が回る。基本はバレエのテクニックでありつつ、笑いを醸す遊びがあちこちにあって、とても楽しめる。

1/9
山田茂樹
帽子にブーツで観客席から入ってきて、上手寄りで横たわり、暗転で服を脱ぐと、タイツに女装っぽい姿。髭顔で特に手の動きが流麗で、動きは抑えているが、踊れるエネルギーをじわっと発散。ただ映像が出なかったのが惜しまれる。
藤井友美
踊りならざる動き、爪先立ちなどの動きに、ある種の存在感を見せたが、何かを生みだすにはもう一つ、強いコンセプトが必要かもしれない。
UIUI
長身と短身のコンビ。黒にブラを強調した衣装、奥に2つ小さいベンチ。1人の動きに対応してもう1人が動き、逆をとるなど、常に2人の動きは別だが、対応していく行為的な動き。最後に激しい曲で踊りまくる。ディスコ、ショーなどのダンスの動きのオンパレードはちょっと残念。
欲張りDDD
上手奥から下手手前に斜めに50センチ幅の白い布。その上に薔薇を散らした白い衣装の女が倒れていく。徐々に這って暗転。下手壁の窪みに体を入れた女が顔を崩して泣き、舞台に出てきても泣きまくる。白い布の上を奥から手前に来て戻り、並行してじわじわ進むと、薔薇女が出てきて布の上を進む。対照して展開する。何が出てくるか楽しみな舞台で、並行してずらしながら動くところが非常にいい。

1/10
原田悠
男女2人ずつの4人集団。1人が上着を着ながら対話の一方の会話を語る。3人がスポットで動いたあと、4人でそれぞれが日常的な動きを集積するが、途中から同様のトーンのままで、もう一つ展開がほしい。
政岡由衣子
女性3人だが、みなダンス的のようなそうでないような中途半端な踊りに徹する。中で小さい女性が奇妙な感じをかもしている。
兼森雅幸
白いタイツにフリルシャツ、日本のフルバンドジャズで上手奥から下手手前に走り込み、倒れ戻りを繰り返し、ポーズの連続。普段着に着替えて話しながら動かす体は気になるが、最後はその服で最初の動きに戻り、もう一つ展開がほしい。
二藍
ベージュの派手な衣装でブリッジ状に倒れる女たちはインパクト。曲に乗ってダイナミックに踊って回るのがだ、それで終ってしまう印象で、もう一つほしい。

1/11
内田しげ美
派手な衣装で箱から出てきて、アルコーブから投げられるアルミ蓋、ひしゃく、バケツなどとともに踊る。コミカルにしようとするのだが、残念ながら笑いは起こらない。
井田亜彩実
以前は「イダクロ」としてコンテンポラリー作品を作っていたが、今回は構成されたショー的といえる作品。金色とも見えるベージュの衣装でブリッジ的ポーズをくずしながら構成的に踊るモードは、ちょっとジャズダンス的だが、楽しめる。手間の水槽が目立たなかったのは残念。
竹之下亮
ブラとパンティの女性が観客席の階段を降りてくるのをパンツで追うように舞台に登場。自分の顔が写ったパソコンを掲げて前にくる。女は横になり、竹之下は他愛ない動きを連続し、物を広げて遊びに徹した印象で、アイデアが未消化の印象。
岡野・桜井・細川
抽象的な動きのコンセプト、3人の感覚はとても面白い。ただ、もっと身体のエネルギーが感じたかった。

1/13
Grilled BITCH CONTROL
映像が長く、踊りは踊らず、身体の存在もわずかで、ダンス表現としての魅力はないが、周囲に置いたLEDなどの設定が面白い。
武藤浩史
クラシック、バレエ曲などが次々とかかるなか、踊らない動きに徹底する。コンセプトが強く、見ていて特に面白くはないが、それでもなぜか見せる力がある。
塚田亜美
冒頭、上手に一列で並んで動く構成から、椅子とり鬼などの遊びと、それが展開して、1人の男を女たちが奪いあうなど、楽しめる構成だった。
愛智伸江×永井由利子
下手に四角い照明の中で永井、奥の闇に愛智が交互に動き、途中でフェイドアウトする構成が美しいが、モダンダンス的な既視感がある。後半二人で絡む展開はちょっと甘く、もう少し考えたい。

1/14
中村理
ワンピースを引っ張り後ろ向きに進む冒頭は印象的。ピストルの音とともに、亡くなった少女なのか、女装偏愛なのか、奇妙な物語性がある。ダンスがもっと迫力があるといい。
宝栄美希
上手に鏡。闇の中をジャラン、ジャランという音が続く。明転すると散らばるネックレスを拾いながら進む。それ後方に投げて落ちたところでそれとともに繰り返し踊るところも面白い。とても印象的でインパクトがある。
石井則仁×添光
明転で四角く歩き、そこに照明という導入がいい。録音のバイオリンは同音の連続と和音に変化し、それを背景に踊る。当初とても見せたが、途中からバイオリンのほうが立ってしまった。中央で垂直に跳ねて倒れる繰り返しを延々と続けて終る場面は、さらに暗転中も跳ね続けるか、別の景をつくるともっと魅力的になったろう。
Cookie×Cream
前で6人が首振り、後ろセンターで1人がのんびり。そこに1人出てきて、キスしてレズのように見せて、前に出て8人で踊る。さらに赤いハイヒールを片足にして踊り、並べて片方を履いていく。やがていじめ状態になり、1人をバケツに入れて落書きをするが、立場が逆転するという展開で、現在の女子のリアリティを見事にとらえた作品。2008年にファビアン・プリオヴィーユ振付『紙ヒコーキ』で高く評価された、高崎のバレエノアのメンバーの新作。ピナ・バウシュの手法を自分たちなりに表現して秀逸。

1/15
中原百合香
旅行用コロコロバックを使い、物語性を出しつつ、しっかりしたテクニックで踊り、見事に見せる舞台だった。男性の登場はそれほど効果的ではないので、なくてもいい。
越博美
赤ずきんを被ったダンサーたちの展開は奇妙な雰囲気を醸しており、それがダンスの魅力につながっている。
橋本規靖
男性のソロは、自分と大いなるものとの対照というコンセプトが時折見られるため、観念が先行しがちである。橋本も、身体から発するというところに意識をもう少し強く持てば、たぶん語られた言葉も生きてきたのではないか。
葛西恵理奈
インド舞踊を音楽によって現代風にアレンジ。音楽(メレディス・モンク)の音を使ったことで、異なるものが見えてきた。ただ、踊り自体はインド舞踊の基本を超えるものではなかった。



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専門紙誌、日刊紙、公演プログラム、広報紙誌、Web媒体等にバレエ&ダンスの公演評・解説・紹介記事・取材記事を執筆。>ブログ「ダンスの海へ」

 

【今年を振り返って】
一昨年、昨年に続き審査を担当した。36組のうち20~30分の作品が大半ながら総じて見ごたえある。「例年になく粒ぞろい」「レベルが高い」という声も耳にした。が、手放しでは喜べない。全体の底上げはあるにせよ、強烈な個性を持った創り手・インパクトのある作品が減少している感もある。広くシーンを鑑みても同様のことが言えるのだが……。

参加者の幅が広がっている点に注目したい。大学ダンス出身者、欧州でダンスを学んだ人などが増えている。今年は内外のコンペティションで評価を受けた気鋭の参加も少なくなかった。彼らにとってアーティストとしてさらなる高みをめざし、社会的な評価を得るため再び勝負をかける場として捉えているのだろう。男性ソロの意欲作が続いたこともうれしい。多様な才能をキャリアの有無関係なしに受け入れる懐深さこそが「新人シリーズ」の特徴である――その思いを新たにした。表現者たちを守る砦であり続けてほしい。

講評会にも多くの参加があった。みな出自やキャリアは違う。でも、いま、この国に生き、表現しているという点では、同じ問題意識を抱えた仲間といえる。みずからと真摯に向きあい地道にダンスの道を邁進する人たちが、意識の上でもよいから手を携え、日本の、いや世界のダンスシーンを実り豊かなものにしていくことを願ってやまない。


【審査について】
原則1組の新人賞を選ぶ。昨年は“怪物”川村美紀子が圧倒的支持を集め、それに次ぐ高評を得たビルヂング(加藤紗希)がオーディエンス賞に選出された。ただ、そんなのは稀。多種多様な上演があり、審査委員の守備範囲や舞踊観も違う。今年は評価が分れた。

個人的な審査基準は例年同様。心揺さぶられ、刺激を受けたものを挙げたい。ポイントは3つ。1つは「インパクト」。いかに観客に訴求するプレゼンテーションができているか。2つ目は「新しさ」。手法・表現・感性なんでもいいが新鮮な驚きがほしい。3つ目は「パーソナリティ」。独自の色・味わいあってこそ観るものの心に残るのではないだろうか。

そして、後述する個人的に強く推した2組を選んだ最終根拠となるのが舞踊の質だった。いかに身体を使っているか、どのように身体を動かしているか。そこに注目した。


【推薦した3組】
審査の際、昨年同様まず各審査委員が推したい3組を挙げることになった。

愛智伸江×永井由利子『WHITE LETTER』
冒頭で手紙を持った愛智。メイド服姿の永井。ふたりが交互に踊り、やがてデュエットを踊る。陰影深い照明変化と絶妙に溶けあって言葉にならないような「思い」が「身体」で雄弁に語られる。時空を超えて行き来する深遠で美しい叙情詩にすっかり魅了された。

振り付けの肌理の細かさに注目。バレエのステップやコンテンポラリー・バレエ特有の身体づかいを発展させているのが新鮮だ。アティチュード(軸足ではない方の足の膝を曲げて立つ)のようなバレエのステップに手を加え動きの流れのなかで感情の機微を立ち上げる。巧緻で美しく洗練されている。技量、構成力、照明・衣裳などの美的造形いずれとってもクオリティが高い。ことに照明は特筆すべき。転換の巧みさ絞り具合の細かさには脱帽した。

意欲作の登場に興奮したが他の審査委員の支持は得られなかった。「ウェルメイド」な点は認められたがスタイルがさほど新しくないということらしい。そうは思わない。少なくとも動きに関しては高度かつ清新。新しい感性の反映された現代ダンスとして鉱脈を掘り当てつつある。磨き抜けばインターナショナルな水準で勝負できるはず。愛智は現在、中村恩恵に師事。永井はNoism2を経てフリー。大魚を逃した感が強い。痛恨の極みである。

宝栄美希『pendant』
暗闇から現れ、地面に点在するペンダントを拾いつつ首にかける。上手ミラーの前で首を傾けペンダントを落とす。そして、それを投げ回るといったことを展開しながらのソロだ。

ペンダント=身体の装飾。他者にみられること、自我の象徴といえる。自我との葛藤をあらわしたもの?だが、宝栄のダンスはモチーフの絵解きではない。関節の柔らかい肢体を俊敏かつ細やかに用いた迷いのない踊りからせつせつと伝わるのは、言葉が生まれる以前の始原の世界に触れたかのような感触。筆舌に尽くし難い感動がある。舞踊という人間の根源的な表現手段――人類が社会を形作る以前から存在する――に接すると、言葉や概念では語りえぬ表現に心打ち震えることがある。「思い」を直球で表出するだけでは起こりえない。宝栄の繊細極まりない振付(体の動かし方・使い方)あってこそ。傑出した舞踊家/振付家であると再認識した。ペンダント、ミラーを効果的に用い音響や照明も質が高い。

「横浜ソロ×デュオコンペティション2008」審査員賞・MASDANZA賞。「MASDANZA13」ベストダンサー賞。若いがキャリアある人だ。天才肌の踊り手だが「作品」を創れない訳ではない。今回「新人」としてソロに挑み、自分との勝負に負けなかった。惜しくも賞に届かなかったが果敢なる挑戦は必ずや次につながると信じたい。この人の踊りをみるにつけ、硝子細工のように繊細な感性だと感じる。踊ることによってしか救われないのだろうか……。けれども観るものの心に深く分け入り浄化してくれる稀有な踊り子なのである。

COLONCH『エスケープ』
2008年、お茶の水女子大学文教育学部芸術・表現行動学科の同期生によって結成された。集団創作がウリであるが、優等生的な作舞・構成に終始し、パッとしない印象だった。

今回は進境を感じた。やはりダンサーの力量が高い(阿久津孝枝、中津留絢香、長谷川風立子、東島未知、藤澤優香が出演)。見せ場を心得た群舞や各々の個性を示すソロの配し方も常套的ながらも機能していた。そういった土台がありながら、「いま」の時代に生きる、大人になりきれないような、さまよえる女子たちの行き場のなさみたいなものが切実に出ていた。ラストに余白があり余韻を深めていたのも印象的。音響(牛川紀政)や照明も質高い。

全体を振り返ると総合力の高さ、インパクトある舞台という点でCOLONCHが浮上してきた。集団としての色が見え難く迷走状態にも思われたが、今回は彼女たちの「等身大」を奇を衒わずに表したことが功を奏したか。正直さほど評価していないが無視できない存在。

大学ダンス出身者がダンスシーンを豊かにしているが、既存の価値観や手法に囚われ自家中毒気味の人たちも少なくない。COLONCHにしても、そう。ユニットとしての方向性や作風が未知数すぎるのは明らか。一体どうするの?でも、大学卒業後それぞれの仕事を持ちながら集い、意見をぶつけ合いながら「いま」という時代と格闘する真摯な姿勢を買おう。地道に活動する大学ダンス出身者の希望となるべく一層の研鑽に励むことを求めたい。


【他の有力先品・注目作
審査過程で、まず36組→8組に絞られた。前述の3組と以下の5組である。

7g(ナナグラム)『全力スキップ!!』はバレエ「白鳥の湖」の音楽を使ったファンタジー仕立ての佳作。奔放で楽しい。林七重はバレエやジャズダンス、コンテンポラリー・ダンス等経験豊富らしく振付に日常的な動きも取り入れるなど創意十分。今後が楽しみだ。

水越朋『しかるべき場所』は三味線の内海正孝との協同作業によるソロ。人形振りのような動きも織り交ぜ力強い三味線の響きとスリリングにせめぎあう。音感の豊かさが際立つ。独特な透明感と吸引力ある面差しも印象的。期待の新鋭である。

欲張りDDD『重過ぎるダイヤ』は石橋愛と渡邊愛祐美のデュオ。交わらないふたりの距離・関係を、白い紙の通路、赤い薔薇?の花といった小道具も使い浮き彫りに。明確に絞った色彩感覚が効果的。ブラックボックスであるd-倉庫の空間で映えた。

政岡由衣子『暴露ミー』は政岡含む3人の女性が、ミニマルな動き、激しい踊り、個性にじむソロを多彩に変化する音楽とともに展開する――と書けば面白くもなんともないが、場面・身体の質感の変化がポイントのコンセプチャルなダンス。後味さわやかなのがいい。

Cookie×Cream『にせもの』は女子高生たちの「いじめ」を扱っている。ピナ・バウシュ的なタンツ・シアターの手法を用いた群像劇。生々しいだけでなくシニカルな視点もあるが、全体のテイストが幼い。「いじめ」の構図と手法が色濃く出過ぎた感も受けた。

オーディエンス賞にも触れておく。

井田亜彩実『魚は痛みを感じるか?』は力作である。男女5人のダンサーが「魚たちの物語」を紡いだと思しい。ダンサーの錬度高くダンス自体に惹きつけられるし、照明や水槽のオブジェなど美術も考えられている。ただ、井田なりの着想や表したいことはあるのだろうが実演に接する限り何をしているのか分からないというのが率直なところ。私の感度が鈍いだけではないと思う。意味を説明する必要はないが提示の仕方を再考すべきだ。

以下、個人的に特に注目した、あるいは審査の際に話題になったものについて触れる。

神田彩香と夢見るマートルズ『白熊パイン・フラミンゴの冒険』のパフォーマンスには幼さも残る。でも、照明や衣装・音楽・唄ふくめ独自の世界を立ち上げ好感触だ。
杉田亜紀『りじりじり』は意表を突く動きを丹念に積み重ねる異色ソロ。
UIUI『それ。と、これ。』は持ち味のはつらつとしたダンスをみせるための前振りに説得力が増した。
藤井友美『月笑い、うたう唄』はミニマル・ダンス志向で仕上がりは悪くない。
竹之下亮『ざま』は女性とのデュオ。随所にアイデアとみどころがある。観客のおばちゃんの乱入!は衝撃的。
岡野・桜井・細川『FLAP』の、モダンやポストモダン、コンテンポラリーといった枠に捉われず身を削って生み出した動きの連鎖は手ごたえ十分だ。
GRILLED BITCH CONTROL『the MEXICAN』は映像とダンスの絡みあいが刺激的で今後が楽しみ。
武藤浩史『矢』は昨年に続きあの手この手で「ダンスって何?」と問う。智略が冴える。
塚田亜美『みえないところで、みえること』のセンス良くユーモラスな作舞に感心。
石井則仁×添光『時雨時』はインド奏法のヴァイオリン奏者の調べと共振し緊張感を漂わせた。
中村理『ゆめゆめウツツ』は個性的なキャラクターを活かした豊かな語り口が大変に魅力的。
中原百合香『ピンクブルー』は7人の女性とひとりの男性をめぐる話をうまくダンスに仕立てた。


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東京大学大学院満期退学。博士(文学)。埼玉大学教養学部助教授を経て、現在、専修大学文学部哲学科教授。DAAD研究員(1986-7)フンボルト財団研究員(1996~7)。「‘コンテンポラリーダンス’という概念」『上演舞踊研究』、「舞踊装置:身体性・作品性・官能性」『講座文学』、「近代の残滓としての芸術」『大航海』、「主体の破れ/夢の存在論:夢と哲学」『文学』、「針の先で天使は何人まで踊れるか」『平成18-21年度文部科学省科学研究費基盤研究(B)研究成果報告書』、『歴史の構造』(勁草書房)、『哲学で何をするのか』(筑摩選書)など。『ダンス・マガジン』『照明家協会雑誌』などに舞踊批評を執筆。日本舞踊学会理事。


 

「新人シリーズ」は、ダンスのさまざまなジャンルのどれかに焦点を絞った企画ではなく、登場した作品・作家、また新人賞の審査を担当する者の得意分野も、バレエ、舞踏、コンテンポラリーダンスなど、多様である。今回は、ほぼすべての作品が一定の水準に達しており、逆に、どれかひとつが飛び抜けていたわけでもなかったが、審査にあたっては、各作品においてどのようなことがなされており(振付演出上の工夫)、観客との間になにをおこしているか(効果)に着目した。
各作品については以下の通りである(上演順)。

1/5
COLONCH
はじめの群舞は、動きもそろい、力強かった。東島未知の繊細な動き、長谷川風立子の勢いなどを、作品の流れや構成の中でもっと活かすことができれば大化けするかもしれない。
石山優太
一見、もの柔らかな印象ながら、物や空間と絡んでいく動き、表情が、狂気を感じさせ、作品の中でギャップをつくった。
KEKE
いきなり爆発する幕開け、静かな抑制、ジミー・ヘンドリクスのブルースとともに展開した立ちのぼる炎のような動きが流れをつくった。
神田彩香と夢見るマートルズ
テクノ風、サイボーグ的な異世界を、わずかな動きと衣装、曲の効果で一気に作った。

1/6
Flexible Dance Circuit

OHPの単純なメカニズムを逆に活かして、重力が逆に働くような世界をつくり出したアイディアはアナログながら効果的。
岩沢彩
変化に満ちた動きの展開で流れをつくり、机などの小道具と戯れる身体によって、不思議な世界を立ち上げた。
A+
動きのタメと、ひねりを使った素早い動き、などのコントラストが、曲や照明の変化と相まって効果的な構成を作ったコンテンポラリーダンス。
杉田亜紀
静かだが切れ目のない、緊張感のある動きで芯の通った時間を作り、マイクの使い方を工夫することによって身体の触感を伝えた。

1/7
プロスペクト・テアトル
3人が腕ひらいて俯せになった、はじめのシーンが、美しく、また神話的な世界を一気に立ち上げた。
斎藤英恵
さまざまな動きの変化によって流れをつくり、椅子と身体との関係で、さりげなく物語世界を構築した。
水越朋
静かな動きながら、芯の通った動きで緊張感のある時間を作り、倍音の多い三味線の音との共鳴によって、激しくスパークした。
7g
脱力したモダンバレエ的動き、無手勝流の所作ながら、《白鳥》の煽り系音楽に負けることなく盛り上がり、また、何気ない動きがコンテンポラリー。

1/9
山田茂樹
脱臼したような動き、柔軟きわまりない動きから、激しいスパイラルの動きに炸裂する流れができていた。
藤井友美
小刻みな動きと大きなポーズのコントラストなど、身体の変化だけで時間を作り、リズムを作ってはそれを裏切る。磨き上げた先が楽しみ。
UIUI
威圧感のあるポーズとロック、ゆったりした動きと曲と連動した動きの迫力によって,メリハリのあるシークエンスを作った。
欲張りDDD
劇場機構を活かした意外な冒頭と、黒い床に拡がる白い布と赤い薔薇のコントラストが骨組みを作り、ワイルドな風情がしっとりまとまった。

1/10
原田悠
「集団行動」的ユニゾンと、個々の動きのコントラスト、無音の動きに曲が入ることによる空間変貌などを駆使しつつ、生の一断面を描いた。
政岡由衣子
ダンサーの無心な動きにはじまり、活き活きした動きではじけたあと、奇妙な存在感のぎこちない身体が、フェイドアウトするでも、どこかに着地するでもなく続くラストシーンが、呑み込みがたい余韻を残す。
兼森雅幸
上下白の印象深い衣装、思い出話のような台詞など、無手勝流ながら、作家本人のあり方が浮かび上がるドキュメント。
二藍
十分訓練された、姿形もそろった四人のダンサーによる、異生物的動きと造形が、独特の神話的雰囲気を作った。

1/11
内田しげ美
テレビでおなじみの仕草、缶の蓋との絡みなど、舞台を縦横に使いながら体当たりのコミックダンス。
井田亜彩実
上手前に置かれた水槽、頭に落とす木の葉(?)、照明、衣装などが、それだけで、この世ならぬ世界を立ち上げつつ、各ダンサーの個性的な異生物的動き、奇妙に細かい動きが,その世界に奥行きを生む。
竹之下亮
客席後ろの壁を叩く、など、意表を突く仕掛けに加え、男女の一見、無秩序な動きが、身体の距離やタイミングの変化で快いリズムをつくった。
岡野・桜井・細川
ぎこちない、 “やじろべえ”的動きのユニゾンで、コミカルなリズムを作り、最後はポップなディスコダンスに突入する動きのメリハリ。

1/13
Grilled BITCH CONTROL
クールな映像、なぞめいた人物、“かわいい”動きのデュオ。床の発光体をほうきで寄せるアイディアが秀逸。
武藤浩史
観客の動きを次々に裏切るシークエンスの後、床に仰向けになって足首をつかみもがくポーズと静かな曲のコントラストが映画的ドラマ生を生む。
塚田亜美
女子五名と男子一人との“人間模様”を描いていく、リズムよく転換する何気ない動きのシークエンスが快い。
愛智伸江×永井由利子
情動豊かな女性と、無駄のない清潔感ある動きの女性とがそれぞれ刻んだシーンがつくる、明/暗、表/裏、光/闇のコントラスト。

1/14
中村理
効果音や音楽と連動しながら、密度が高くなっていく動き、シーンの切り替えが、徐々に、サスペンスと密度を高めていく。
宝栄美希
上手に置かれた鏡によってメリハリが生まれた空間を行き来し、無数のネックレスを巧みに用いながら、完結した空間で自分との対話が展開する。
石井則仁×添光
視線が向かう作動部とは異なる身体部位を動かすなどの裏切りの連続が引き込みを生み、延々と続く落下が無限感を立ち上げる。
Cookie×Cream
首の動きのみの静かなユニゾンから、増幅し続ける女子たちの黄色い声と突然の沈黙、力強いアンサンブルと引き込み力のあるソロなどが交錯するなかで、「虐め」にともなう心理のさまざまな機微を一瞬で造形した。

1/15
越博美
加速し、回転ジャンプで盛り上がるアンサンブルの流れに、ダンサーの個性が表れるようなソロと、ひとびとの視線のドラマが交錯する。
橋本規靖
静止から徐々に動き出すシークエンス、舞台から退いたかと思わせて戸口にあらわれる頭や手、朗読の声などから、内向的あり方が浮き上がる。
中原百合香
姿のそろった女性ダンサーと男性俳優が、スーツケースなどわずかな小道具によって華やかな都会的光景を描きつつ、そこに潜む闇を抉り出す。
葛西恵理奈
メレディス・モンクの曲を用いながら、インドの古典的舞踊技法によって、端正な世界を作った。



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