身体に内包されたあらゆる「機能」が複雑に相互作用している、そのさまを観察し、検証していくことに喜びを感じます。
足の指の動きが顔の傾きに作用し、口の中の筋肉が全身の神経に作用し、目の前にいる人の声が私の皮膚に作用し、私の背中の震えが誰かの内臓に作用する。そのように身体の機能がさまざまに働き総合された結果として、歩いているだけで観る者の心を躍らせるような身体や、そこに立っているだけでたまらなく不安にさせられるような身体が生まれうるのだと考えます。
ダンスの技術/振付の技術とは、身体の様々な機能のあつまりによって起こっている何らかの「状態」を要素ごとに分解し、できる限り再現可能なものにしていくことであると言えます。分解された機能を再び自由に組み合わせることで、そのものの「印象」や「観る者の体験」を構築していくのです。
しかし、全体を機能ごとに分解しながら実験を重ねてみると、機能同士のネットワークがいかに無秩序であるかがだんだんとわかってきます。手、背中、顔、皮膚などの表情はそれぞれが身勝手で、「どう機能させるか」を選ぼうにも、少し前までは手の届く所にあったはずの選択肢が立ち消えてしまったり、一見全く無関係な要素の影響により別の要素の選択肢がガラリと入れ替わってしまったりと、思った通りに検証できることなんてほぼありません。
つまり実際の「機能の総合体」としての身体は、再現可能なものとはほど遠く、非論理的で、「AとBだからCの結果が導かれる」というような法則はほとんど通用しないか、もしくは、次の瞬間にはひっくり返ってしまうような秩序のもとにあります。無数の機能同士の関係は、複雑なうえに可塑性があり、乱数がそこかしこに挟まっているように感じられます。けれど、秩序が全くないわけではなさそうなので、そのわずかな手がかりにすがりつきたいのです。
ダンサーとしての私は、観る者に対して自分の身体が及ぼす作用をある程度はコントロールできると信じて舞台に立っているわけですが、それだって当然ひと筋縄ではいきません。例えば、観客に対してフレンドリーであろうとすればするほど遠い存在であるかのような印象を与えてしまったり、逆にほとんど無視するような冷たい態度をとることが、かえって友好的に感じられたり安心感を与えてくれることもあります。それは同時に、ある結果に辿り着くための道筋が無限であることを示しています。意味や論理とは異なる、もっと動物的な秩序への可能性がそこには開かれています。
ある踊りを踊るにあたって、身体のどの機能をどんな組み合わせで働かせるか。その選択肢の豊かさにダンスの魅力があると私は考えています。意外な機能の組み合わせによって、これまでにない新たな作用をもった身体が生まれるとき、人間の身体というものを私はとても愛らしく思います。
白井愛咲 Aisa Shirai
1987年生まれ。尾花藍子主宰ダンスカンパニー『ときかたち』所属。立教大学映像身体学科を卒業後はソロで活動するほか、神村恵カンパニー、かえるPなどに出演。演劇やMVへの振付・出演も行う。横浜ダンスコレクションEX2013コンペティションII奨励賞受賞。ダンスがみたい!新人シリーズ14 新人賞受賞。 http://aisa.moo.jp
次回公演
「ダンスがみたい!18」参加公演
『コンテナ』
2016年8月3日(水)@d-倉庫
|
|