2011年,横浜ダンスコレクションで注目を集めた川村美紀子とスズキ拓朗の快進撃が止まらない。スズキ拓朗は演劇出身だが,2010年,ディプラッツの「ダンスがみたい!新人シリーズ8」の『TRAIN』は,井の頭公園周辺の映像を交えて体を打ち鳴らすパフォーマンスも活用し,最後は混沌へという発想,テンションともに優れた作品で,横浜のソロも非常に魅力的だった。川村美紀子もその前後の中野RAFTやディプラッツ,d-倉庫の作品などで声を使い分けたラジオ番組や音楽を自作し,そのマルチな才能と際立つダンスに惹きつけられた。
川村美紀子はエロスや身体性を強調した要素も強く,『いちごちゃん』(2013年)では自らに蝋燭を垂らすSM場面,森下真樹の『錆から出る実』の客演ではオナニー場面でおしっこを漏らし,最初は偶然だがその後,意図的に繰り返し,裸も辞さない大胆さと挑戦に満ちている。トラメガを持ち込んで叫ぶなどパフォーマンス的要素もありながら,ハイスピードなダンスは比類ない力で,際物でない魅力を見せつける。dー倉庫の『蝶と花』(2014年)は若手ダンサー亀頭可奈恵とのデュオで,遊園地の100円で動く乗る動物おもちゃから陰翳のあるダンスまでを多様に演出した。そして,『インナーマミー』ではダンサーたちを振り付けてダイナミズムで圧倒し,トヨタコレオグラフィーアワードで大賞「次代を担う振付家賞」とオーディエンス賞をダブル受賞し,海外でも公演を行っている。
左)川村美紀子 PHOTO©bozzo 右)スズキ拓朗 PHOTO©上:bozzo 下:福井理文
スズキ拓朗は演劇でtamago PLIN,ダンスではCHAiroi PLINを主宰し,独特のくねったソロのテクニックと独特のコミカルな発想は演劇,ダンス両方に生かされている。『さいあい~シェイクスピア・レシピ~』(2011年)はシェークスピアの三大戯曲を一つの作品に入れ込み,言葉遊びと動き遊びの非常に楽しい舞台で,世田谷区芸術アワード”飛翔”を受賞した。トヨタコレオグラフィーアワードの本戦の『〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒』は,童謡『郵便屋さん』をモチーフに群舞を複雑に構成し,すべてアカペラでダンサーたちに歌わせるシンプルな発想とチープ感が独特の世界を生み,川村でなければ受賞という声もあった。ちなみにフルヴァージョンはd-倉庫で『ゆうびん屋』として上演。また各演劇・演出家コンクールなどでも受賞している。2011年からはコンドルズメンバーとなり,演劇の椿組などから次々と振付を依頼されて活躍し,2014年のフィリップ・ドゥクフレ来日公演『パノラマ』にもゲスト出演している。
2人にライバル意識はなく,それぞれのフィールドで創作を続けているが,ともにマルチな才能を発揮していることからもライバルとみなしたい。
日本のコンテンポラリーダンスの隆盛の一因は,横浜ダンスコレクションの元のバニョレ国際振付コンクールにある。きっかけは,80年代のフランスヌーヴェルダンスやフォーサイス,ピナ・バウシュの来日などだが,「ダンスがみたい!新人シリーズ」,横浜,トヨタなどのコンペがそれを盛り上げてきた。かつてバニョレで受賞した勅使川原三郎はすでに大家だが、ライバルとも目された伊藤キムや山崎広太の世代から「コンテブーム」が生まれ定着した現在,川村美紀子,スズキ拓朗ら新世代が競い合うことで,コンテンポラリーダンスが新しい様相を見せ始めている。
コンテンポラリーダンスは現代美術との関わりも大きく,舞台でのコラボレーションのみならず美術からダンスに入る人,美術ファンがダンスファンにという流れもある。ダンスが欧米一辺倒だった時代から,「コンテブーム」を経て,日本からの発信やアジアとの関わりで展開していくことは,現代美術が、「オタク文化」から「村上隆ブーム」を経て,日本とアジア独自の流れとして世界に影響を与えていることと相まって,今後の芸術の動きとして,さらに注目すべきことといえるだろう。 |